巻頭言

限りなき創造と繁栄をめざして

滝川 精一(キヤノン販売株式会社会長)

-人間だけが創造の力を与えられている-
 限りない時間と空間の展開のなかで、われわれ人間は限りある人生を生きていく。そして人間だけが認識の力、思考の力、創造の力をもっている。してみれば自分の力に応じて限りなく認識を深め、広め、そして創造を続けて行くことが天から与えられた人間の務めであると考えられる。人間の能力にもいろいろあり、大きな創造をする人もあり、小さな創造をする人もある。しかし何れにしても、与えられた自分の力を精一杯発揮して何かを創造して行くことが生きていることの証であることは間違いあるまい。私は技術者ではなかったので会社づくりの起業家としてアメリカと日本で二十杜ほどの会社を創造してきた。松下幸之助さんのような偉大な起業家に比べれば、けし粒のようなものであるが、その中、キヤノン販売(一部上場)、日本タイプライター(二部上場)、キヤノンコピア販売(店頭公開)、キヤノンソフトウェア(店頭公開)の四社は公開企業として発展しており、会長としてこれらの会社を見ていると自分の創った作品を見ているような気分になる。私から見ると、科学者、技術者の人達は羨ましい。新しい発見、発明やらイノベーションに挑戦して行く日々は人間だけができる限りなき創造の道である。ゴア副大統領を中心とするチームのNII構想によって、情報ハイウェイとマルチメディアの科学技術の進展がアメリカ経済を急速に発展拡大させ、情報・通信産業のデファクト・スタンダードを支配してきている。日本においても、電子情報通信学会の先生方の限りなき創造が日本の二十一世紀の繁栄を生み出してくれることを大いに期待する。若い技術者の皆さんの努力がバブル不況を吹きとばし、日本経済の再浮上と世界の繁栄をもたらして貰いたいものである。
- 二十一世紀の夢 -
 人間は歴史を通して、自由と平和と繁栄を求め、そして民主主義を生み出してきた。そして二十世紀には人類の歴史の進路を決める二つの大きな対決があった。一つは第一次世界大戦と第二次世界大戦で、いずれも民主主義勢力と帝国主義勢力の激突であり、ともに特権身分のない万民平等な市民社会を創り上げようとする民主主義勢力の勝利に終わった。二つめは70年間にわたるソビエト連邦の形成から崩壊に至る歴史と対応して、そのプロレタリア独裁による共産主義的全体主義と自由民主主義との対決であり、二十世紀の半分の期間、東西の冷戦とイデオロギーの対立が続いた。これもソ連邦の解体により解消し、今や世界のほとんどの国が市場経済と議会制民主主義により経済と政治の基盤が一元化されつつある。その結果、経済的には世界は一つの統合市場として、すでに国境はなくなりつつあり、未来の世界合衆国を夢みる人も増えているのではなかろうか。
このような二十世紀の偉大な成果を踏まえて、私たち地球人は二十一世紀に次のような夢を描いている。
・戦争のない地球
・国境のない地球
・自然と人間の創造力の調和した美しい地球
・自由と民主主義の円熟した地球
・民族の歴史と文化の宝庫としての地球