研究室めぐり

日立製作所日立研究所 情報制御第一研究部

福永 泰

1.はじめに
 日立製作所日立研究所は茨城県日立市の南端に位置し、電力・電機・自動車・産業システム等の社会インフラシステムを中心に研究開発を推進しています。その中で、情報制御第一研究部は、LSIやソフトウェア等のエレクトロニクス技術を基盤に、こうした社会インフラシステムむけの各種情報制御基本システムの研究開発に責任をもっています。歴史的には、1960年代後半に始まったプロセス制御用コンピュータシステム、プロセスマンマシンシステム、ネットワークシステム等の開発を起源として発展し、数多くの制御用計算機の開発や、プロセスディスプレイの開発を進め、また、その技術を周辺の応用システムに活用してきました。最近は、マイコンが高性能、低価格化されるに従い、いわゆるembedded systemの開発に特に注力しています。Embedded systemは、情報家電の世界で注目を浴びていますが、情報制御の世界でも、広い意味では同じ技術を必要とします。応用ニーズの違いから、特徴ある技術開発も必要となります。それを図1に示します。

図1 情報制御分野の特徴

 設置されてから20年以上等、長期間陳腐化せずに活用出来る環境作り、スループットより応答性が重要となるリアルタイム性の維持、システムの高信頼化をささえる技術開発、故障しても安全サイドに倒れるように設計された高安全システム、現場等に設置され、即座にプラント情報がわかりやすく表示されるマンマシンインタフェース等応用システムニーズに基づいたエレクトロニクスシステム開発が特徴となります。
それでは、以下、3つのテーマを選んでそれぞれの研究開発状況を概説します。

2.研究開発状況
2.1.ネットワーク中心コントローラシステムの開発
 情報の世界ではインターネットを始めとしてネットワーク中心の情報システムが主流ですが、制御の世界でも、マイクロエレクトロニクスシステムの低価格化に伴って、すべてのセンサやアクチュエータ、コントローラをリアルタイムネットワークで接続するネットワークベースコントローラシステムが注目を浴びています。図2は、各種の32ビットRISCプロセッサベースのコントローラ群、センサ、アクチュェータ群がネットワーク接続されている様子を示しています。インターネット等の世界規模のネットワークにたいし、工場の中、あるいは、列車、車の中のをつなぐネットワークをインフラネットワーク、フィールドネットワークと総称しています。ここにつながる各種コントローラシステムの開発がポイントで、ネットワークをはさんでもリアルタイム性が保証される仕掛け(転写メモリ)や、信頼性の向上のため、2重化、3重化の技術が適用されています。

2.2.グラフィックスシステム・画像処理システムの開発
 情報制御コンポーネントのもう一つの特長は、マンマシンインタフェースにあります。そのベースになる技術として、グラフィックス技術・画像処理技術とペンベースのコンピュータ対話技術を育ててきました。その展開を図3に示します。特に最近は三次元表示や画像表示がナビゲーションシステムや専用端末等、低価格システムでも提供できるLSI(Q2シリーズ)の開発を行ったり、次のマンマシン技術として紙と計算機を自由につなげられるPaperLinkの試作を進めています。

2.3.産業用システムLSIの開発
 こうしたシステム展開に必須となるのが、LSIに代表されるハードの開発、ソフトの開発の共同作業(Co-Design)といえます。特にLSIについては制作まで考えると特別な仕掛けが必要になりますので、 20年間に渡ってそのシステム化を進めてきました。また、開発したものが設計どおりに動作するかどうかをチェックする診断技術の研究開発も進めています。最近は特にネットワーク環境、分散環境下で、応用システムを理解した研究者自らがLSI設計出来るセンタを設立しました。ここでは、カスタムチップ、CBIC、ゲートアレイ、FPGA等々のLSI開発が出来る環境を整備し、真のSystem On a Chipの実現を目指しています。
3.今後の展開
 エレクトロニクスの分野は、CPUの性能、メモリ、ファイルの容量等々、すべての指標が3年で4倍、10年で2桁変わっており、今後とも止まるところを知りません。当然、今まで考えられなかったところに計算機パワーを活用出来る時代が開けていくと思われます。社会インフラシステムの中でも、距離・時間・コストを意識させることなく計算機パワーがいたるところに利用される情報制御システムが、大きく広まると思われますので、その実現にむけての研究開発を進めていくつもりです。