研究室めぐり

パイオニア総合研究所 ディスクシステム研究部第三研究室<

室長 荒木 良嗣

1.はじめに
1981年8月にレーザーディスクを当社より発表して以来、ディスクパッケージメディアの普及が本格化し、やがてコンパクトディスクとしてディジタル化されたROMディスクによる出版物のディスク化の時代が到来した。コンピュータの急速な普及、あるいは放送等におけるディジタル化の時代を迎え、さらにその記録密度の増大による大容量化、及び転送レートの高速化の要望はとどまることを知らない。現在ではDVDとして片面ディスクでCD-ROM(MODEL-1で最大688MB)の約7倍の4.7GBのディスク及びドライブシステムが発売されるに至っている。
当研究部はその名の示す通り、レーザーディスクから始まり、CD、DVDへと発展してきたパッケージメディアに対するディスク及びそのドライブシステムに纏わる研究を主に行っており、最近ではDVDの規格策定のための、様々なワークグループに参加して、規格化に貢献することができた。
その中で、当研究室では光ピックアップヘッドとその周辺回路及びドライブシステムの制御技術の研究を行っており、その観点よりいかにしてDVDの高密度化を達成したか、さらに今後どのような技術を使ってさらなる高密度化を目指していくかを紹介したい。
2.DVD規格
DVDの概略のイメージが明確になってきたのはおよそ1994年の6月頃からである。それ以前は、CDに替わる次世代の高密度化技術を、各社がそれぞれの立場で研究を行っていたが、この頃から光ディスクに関係する製造メーカー間でDVDの規格を話し合い始めた。漠然とではあるが、12cmディスクにMPEG2のディジタル圧縮技術を用いて、2時間位の映画等のソフトを記録し、これを次世代光ディスクの商品像と考えるようになった。1994年の9月頃から、具体的なディスクのシステムを頭に描いて、次世代光ディスクの規格統一の努力を各社は始めたが、規格として、当時二つのシステムが存在した。一つは、厚さ0.6mm光ディスク2枚を張り合わせ、記録容量をできるだけ多くしようとするシステムである。これは、ディスクの両面が使える、という単純なメリットのみならず、信号面からディスク表面までの距離が小さいため、光学的には高密度化するために極めて有利となる方法である。しかし一方では、貼り合わせという余分な工程が必要であり、且つ0.6mmの薄いディスクを高精度で成形する新しい技術が要求されることとなる。他方は、CDと同じく1.2mmの底面に信号面を置き、出来るだけ現在のCDの技術を継承して使用するシステムであった。当研究部では、次世代光ディスクの、今後のマルチメディア時代に与える影響の大きさを考えて、双方のシステムを開発し、評価を進めた。結果的には、厚さ0.6mm、直径12cmの光ディスクを、両面貼り合わせ構造として、中間に信号面を置き、記録容量が5GByte/片面のシステムを採用することに決定した。1995年1月にSD規格として、これを支持する他社とともに報道発表した、他方のシステムはMMCD規格と称して、SD規格と競合する形で存在することになった。消費者の立場から見れば、規格統一が望ましいことは明白であり、業界での統一への努力は進められ、1995年の前半には製品化を目指して大きな進展を見せた。1995年の9月には、SD規格とMMCD規格の長所を取り入れて、新しくDVD規格を成立させる合意が成立した。新規格は残留直流成分の減少と、全体記録容量の減少とを振り替える規格となった。1995年の12月には、DVD規格の仕様の骨子が固まり、外部への発表となった。1996年の8月には、関係各社が協力して詳細な検討を繰り返した結果、DVD規格をVer1.0として発表するに至った。
3.高密度化
次世代のDVDはmain profile at high level のMPEGビデオストリームが記録できることは不可欠であり、現在のDVD同様の133分の映画をこの品質で記録するためには、その記録容量としては15GByte必要となる。この高密度化に対して、最も効果的、且つオーソドックスな手法としてピックアップヘッドの光源の短波長化がある。当研究室では、DVD規格に関連した光ディスクシステム開発の過程で、短波長光源を使用して、さらに高密度化を達成する技術をすでに開発している。その短波長光源は、SHG光学素子を用いて、赤色レーザーよりその第2高調波である青色光を発生する事によって得られる。我々は、現時点ではすでに15Gbyteの光ディスクシステムの開発を終えており、この技術は1997年のエレクトロニクスショーで公開すると共に、MORIS/ISOM’97で発表を行った。ここでは、当研究室の紹介を兼ねて、この高密度化の技術紹介を行いたい。
すでに述べたように、我々は波長430nmのSHG光学素子を用い、高密度化の研究を始めたが、この短波長化だけではとても15GByteには手が届かず、せいぜい9GByteどまりである。研究室レベルで、記録密度を上げたシステムを作ることは可能であった。しかし、我々の目的は、あくまでディスクとそのドライブシステムが、量産的な設計余裕を持ったシステムの開発である。そのため、その性能の余裕を作り出す技術を開発する必要があった。DVDディスクは、CDと同様にポリカーボネート樹脂の成形によって製造される。樹脂の成型品であるため、光学的にフラットということはあり得ず、これがドライブシステムの設計余裕を必要とする理由の一つである。このディスクのそりに対して、ピックアップヘッドをモーターを使って、機械的に追従させるチルトサーボが従来使われているが、応答速度をあまり上げることが出来ず、また機構的にも小型化に対して限度がある。当研究室では,液晶をピックアップヘッドに応用し、ピックアップの光学性能をアダプティブにコントーロールする方法をとった。チルトサーボは勿論のこと、ピックアップヘッドの光学性能を液晶によって制御することによって、ドラスティックに性能余裕を作り出し、ドライブシステムの設計余裕を生み出すことに貢献できた。
4.おわりに
当研究部全体の技術を結集し、1997年のエレクトロニクスショーで、15GByteの記録容量を持つ、次世代高密度高精細DVDシステムのデモが無事行えたわけである。しかし、研究所で作るシステムであり、ほとんどの物が手作りに近く、当然バックアップ部品も万全ではない。内心は、いつトラブルが発生するか心配であった。