ISS誌創刊のあいさつ

ソサイエティ制が始まって一年たちます。会員の皆様はソサイエティ制になって、何が変ったのか、なにがよくなったのかと思っておられるかもしれません。大きくなりすぎて活性度の低下したアンシャンレジームから脱して、各ソサイエティ独自の活動を自由にできるようにして、活性化を図るという狙いでの出発でした。しかし、実際にはソサイエティにできることはごく限定されたものでした。ようやく8年度予算でソサイエティの自由度がかなり獲得できたという感じをもっております。当ソサイエティ(ISS)は4ソサイエティ中、財政的には最も厳しい状況にありますが、新年度からの活動に向けて種々の取組が始まりつつあります。

このソサイエティ誌の創刊はその一環であり、ここまで持ってこられた関係者の努力に敬意を表したいと思います。このソサイエティ誌がISS会員の皆様にとって、真に有用な媒体となるためにはやはり会員の方々の支援が不可欠と思われます。真に有用な情報を提供し続けるには、いくつか条件が必要です。

1.新鮮で有用な情報を会員の方からどんどん寄せていただく、
2.会員の方の真に求める情報はなにかを常に編集者にフィードバックしていただく、
3.記事の執筆を求められれば、締切り前に分かりやすい読みやすい原稿を作成して届ける、

などでしょうか。ちょっと難しいことをあげたかも知れません。しかし、1万人もの専門家からなるソサイエティですから、皆様のこ協力をいただけれぱ、魅力的で、有用なソサイエティ誌になると期待できます。

学会は関心や興味を共有する人々が集まって、交流する場であります。ソサイエティ誌が会員のオープンな情報交換、交流の場としても機能すること、そのために皆様の積極的な参画を期待しております。

少し視点を変えて近い将来での問題を議論しましょう。 ISSの財政状態が厳しいと述べました。これは経費の算定と予算の配分方式に原因があるのでしょうが、根本的には学会誌や論文誌の制作配布のコストが大きいことが問題点です。これに対して学会でも電子出版の検討をはじめています。電子出版はまだ会員には受け入れられないという見方もあります。会員にとって良質のサービスかどうかを常に吟味しなければなりませんが、会費値上げか電子出版への移行かを選択せざるを得ない事態も有り得ないことではないでしょう。

電子メディアにもっとも近い位置にあるのが、我がソサイエティといえます。その技術に強く関与しているわけです。ここで、技術開発だけでなく、その技術の意味、その効果的な運用などをわれわれ自身の問題として考える必要か出てきたということです。いわゆる紺屋の白袴でなく、当ソサイエティがこれからのあるべき姿を提案できることを期待しています。

最近高校生の理科離れが話題になります。昨年11月所属する学部で体験大学という行事を実施しました。情報は私が担当で研究室のメンバーに応援してもらって実施しました。土曜日の9時から5時をあて、午前中講義、午後はコンピュータの演習(実際には予定の倍の応募があったので、 2部制にして、演習と実験を並行して実施した)、演習はワークステーションでのプログラミングとインターネットの体験で、高校生はもちろん大いに楽しんでいました。講義・実験は私が担当し、コンピュータの仕組みを説明し、実験では、阪急電車の自動改札の取材ビデオを見せ、切符、定期券、ラガールカードなどの切符に、「魔法の粉」を振りかけてパターンを観察するという実験と、マウスの信号の可視化教材を使い、マウスの動きと信号の関係、エンコーダをTVカメラで拡大して見せるなどの実験をしました。かなり興味をもってくれました。われわれの側の印象は、高校生は決して理科が嫌いというわけでもなさそうということです。液晶やその他の先端技術に物理が実際に重要な役割を果たしていることを知って、物理に対する興味が増したという感想もありました。簡単に結論の出せる問題ではないですが、目を輝かして参加してくれた生徒をみてみると、マークシートでの受験技術の教育が生徒の考える力と考えることの面白さを奪っているのでなければいいがと思いました。 ISSでも別に報告のあるように、高校生対象の活動も行っています。これらの活動が、未来の会員に結び付き、技術立国を支えるのに役立つならと思っているのですが、…迂遠すぎますでしょうか?

ソサイエティ会長 都倉 信樹(大阪大学)