総合大会 パネル討論報告

「グラフネットワークの応用と展望」

田村 裕 (新潟工科大)

 3月29日(水)午後,2000年総合大会において, 回路とシステム(CAS)研究専門委員会の企画による標記パネル討論が行われた. 最初に,座長をお願いした豊橋技科大の増山繁氏が グラフネットワーク理論の歴史について概説され, 現在は「情報技術(IT)」と「情報通信網」の発展に伴い, 「ネットワークの大規模化」と「関連した新しい問題の出現」が 重要なポイントとなっているとの指摘があった. 今回のパネリストの方々の講演もこれに沿った形となった.

  1. 田岡智志氏(広島大)

    ``巨大ネットワークにおけるグラフ理論''

    インターネットを代表とする巨大ネットワークでは, ネットワーク全体を把握するのは難しい. そのため,全体を把握できない, またはそれが困難なネットワークに関するグラフ理論が必要である. ここでは,点に計算能力があるような通信ネットワークを仮定し, 比較的現実に近いモデルと, データの流れに注目した単純なモデルについての結果が報告された.

  2. 巳波弘佳氏(NTT)

    ``接点領域連結性とマルチメディアネットワーク''

    インターネットの発展に伴い, ネットワークを介したマルチメディア環境が一般的になりつつある. これは,クライアントがマルチメディアサービスを提供するサーバと 通信を行うことで実現される. この場合,各点(クライアントを表す)と点のある集合(サーバを表す)との 通信の確保が必要である. この概念をモデル化した接点領域連結性についての結果が報告された.

  3. 中野眞一氏(群馬大)

    ``グラフの自動描画''

    抽象的な関係や構造を表現するためにグラフがよく使われるが, それを``適切に''描画することにより,複雑な概念を簡潔に表現したり, 全体の構造を感覚的に把握することが可能となる. この研究では,点数は高々数百程度である (これ以上多いと,人間が構造を感覚的に把握することが困難) ので,NP完全性の議論から離れたところにある. また,描画というジャンルよりデザイン等の他分野の研究者が多いのも特徴である.

  4. 枝廣正人氏(NEC)

    ``LSI設計とグラフネットワーク''

    LSI CADは代表的な大規模グラフネットワーク問題である. トランジスタ数にして一千万を超え,それをつなぐ配線線分などを含め, LSIマスクパターンを表現する要素は膨大となってきている. 現在のLSI設計は大きく分けて,機能設計,論理設計, レイアウト設計となるが,どの部分でもグラフ理論やアルゴリズム分野の 手法が用いられることが多い.

  5. 金子美博氏(岐阜大)

    ``プログラミング演習としてのグラフ・ネットワーク理論''

    最後に,上記講演とは異なり, 教育分野でグラフ理論の問題がいかに扱われているかの報告があった. 最短路等のグラフ理論における代表的な問題は,応用が広い, 視覚的で取り組みやすい,高度な知識は不要等の理由から プログラミング演習問題として適当である. そこで,C言語に限定して市販の初級者用演習書を調べたが, グラフ・ネットワーク理論に関連した問題はほとんど採用されていない という残念な結果となった.

 全体討論に先立ち座長より以下の論点が提示された. これに沿って内容ををまとめる.  最後に,増山座長が総括してパネルを終了した. 筆者が考えるに,この分野は,個々におもしろい, 興味深いという理由から研究している方も多い. したがって,今回のパネルのように, 多くの研究者が集まり議論することは貴重であった. この分野の高度な専門的知識はともかくとして, 基礎理論としては広い分野で必要であるのだが, プログラミング教育の現状をみるように十分ではない. 研究者が連携し,外に向けて重要性を理解してもらえるよう 活動することが大切であると感じた次第である.