ソサイエティ大会 パネル討論報告

パネル討論「社会変革期における使える技術者の教育はこれでよいか」報告

高窪 統 (中央大)

 ソサイエティ大会中の9月8日(水)午後に, 回路とシステム(CAS)研究専門 委員会が企画した標記パネル討論が, 東京理科大学の関根 慶太郎氏の司会により行われた. まずはじめに, 司会より, 本来, 工学部はエンジニアを育てる場所である, しかし, 現状で は技術を教えるにとどまっており, 技術者の育成は企業の教育にゆだねられてきたが, 社会変革期にさしかかった今日, 企業内でその余裕が無くなってきている. さらに, 技 術大国に成長するに伴い, 技術だけではなく, エンジニアに必要なものたとえば, 情報 管理, コミュニケーション(語学力を含む)等の手段を教育する必要が高まってきてい る, と話題提供がなされ, パネリストの方々の講演が始まった.

1. 篠田 庄司氏 (中央大) ''社会変革期における大学教育''
 篠田氏は, はじめに社会変革期での大学の環境について述べた. 少子化(18歳人口が 1992年に200万人, 2009年に120万人)による大学の大衆化と統廃合. 高 校教科内容の変更にともなう, 大学卒業時の質の保護に向けた補完カリキュラム. 多様 なる入試システム(社会人入試等). 高齢化社会における生涯学習. 終身雇用制の崩壊 に伴う技術者の流動化. 企業内の教育困難. 経済と市場の地球規模化, 企業の多国籍化 , が挙げられた. このような環境のなか, これからの大学における教育のあり方につい て述べた. 教養と専門の適切な組み合わせによる効果的な教育. 英語によるコミュニケ ーション, プレゼンテーション, 技術英語等の語学教育. 専門教育. 教育方法の改善( 実験演習の充実, 演習や卒研でプレゼンテーション能力を育成, 効果的な宿題, 単位認 定制度等). 人事システムの改善(企業と大学の人間交流), 等の必要性を大学の立場 から提案した.

2. 藤高 一郎氏 (トーキン) ''21世紀に通用する技術者とは''−米国との差を中心に−
 藤高氏は, 日本と米国という2つの異なった文化圏における社会生活の経験から, 両者 における教育の質の違いを示し, 日本社会における教育の問題点とその改善策について 述べた. 教育の段階には, 習う(真似する), 教わる(覚える, 工作する), 指示され る(調べる, 観察する, 考える), 批評される(解析する, 疑う, 改良する), 任され る(探す, 発想する, 提案する), 期待される(想像する, 連想する, 提案する)があ る. 日本の教育課程では主に前半の課程のみが重視されており, このような環境のなか では, 能動的(企画する, 説得する)な技術者は育たず, 日本の技術者はきわめて受動 的である. 安定期においては, 受動的な技術者も必要とされてきたが, 社会変革期にさ しかかった今日では, 独創性, 発想, 企業センス, カリスマ性をそなえた能動的な技術 者が求められる. 日本のハンディとしては, 儒教思想(比較文化), コンセンサス社会 , 平和主義, 恥の社会(沈黙は金), 日本語の閉じた社会, 等があげられた. 日本の技 術者が生き残るためには, 覚えるを越える段階の教育, ディベート, 英語教育, 英語ベ ースのインターネット(日本語ベースのインターネットでは英語ベースに比べて情報が 限られてしまう), 挑戦を賛美する環境を充実していく必要がある.

3. 堀田 正生氏 (日立製作所) ''企業が大学に望むこと''
 堀田氏は, まず, 半導体産業を例にとって求められる技術者の変遷について述べた. カ スタム設計を行っていた時代は, 理解力を持つ技術者が求められてきた. 汎用LSIの時代 になると, 統合型技術力が求められるようになった. さらに, 今日のシステムLSIに時代 になると, 顧客市場の要求を判断する力, システム力, 高い専門性が求められるように なってきている. 日本の社会も高度成長期から, 成熟期へと変化してきた. これにとも ない, 競争力(問題解決型から発掘型へ, 即戦力から経験と実績重視へ, システム力), 課題解決力(物事の優先順序を即判断し解決していく能力), 同一思考・あてがい文 化からの脱皮(協調性を持った個の発揮)が求められている. また, ISSCCにおける発表 機関の比較をすると(完成度の高い研究報告数という意味で), 欧米では, 大学と企業 の共同研究が非常に多いが, 日本からはこのような例がほとんどない. 今後の課題とし て, 大学と企業の共同研究を促進していく必要がある. それには, テーマの選定, 分担 の明確化, 知的権利, 試作等の点で様々な阻害要因があるが, どのようなことが可能で あるかを見つけだしていかねばならない. 企業から大学への要求として, 人材の育成( 発掘型研究技術者, 協調性ある「個の発揮」), 共同研究の促進があげられた.

4. 神林 紀嘉氏 (長岡技科大) ''長岡技術大学におけるインターンシップ教育''
 神林氏は, 20年間長岡技術大学で継続してきたインターンシップ教育のデータをもと にその現状を述べた. 全国のインターンシップ実施率は, 平成10年では大学26%, 短大10%, 高専74%である. 実施学年は, 3年次87%, 4年次37%である. ま た, 実施時期は, 夏83%, 春20%であり, ほとんどが1〜2週間程度の長さである . 長岡技術大学では, 実施期間を3ヶ月, 8単位の単位認定を行いインターンシップ教 育を行っている. 指導教官と派遣教官を設置して, きめ細かい指導体制を維持している . 評定については, 実務訓練報告書(月一回), 実務訓練評定書(終了時), 報告会 (大学で)にもとづき合否を判定している. さらに, 受け入れ機関, 教官, 学生が参加す る, 実務訓練シンポジウムを開催し, 意見交換を行いインターンシップ教育に還元して いる. 実施上の留意点としては, 受け入れ先・大学・学生が趣旨を十分に理解する, テ ーマの選定, 予算措置(最近は国からも援助が得られている), 災害保険(女子, 留学 生の受け入れ)等の問題があげられた.

5. 岩崎 立哉氏 (通産省)''首都圏情報産業インターンシップモデル事業''
 岩崎氏は, 社会変革期を迎え生じてきた, 企業と大学の隔たりをなくすために開始した 通産省インターンシップモデル事業について述べた. 企業サイドとしては受け入れ期間 を1〜3ヶ月としたいが, 大学サイドは夏休みを利用して2週間から4週間程度として いるため, 短い期間では実務プログラムを組み難い. さらに, 企業サイドからは, 単位 認定をしてほしい等の要求が出ている. 大学サイドからは, 期間の統一化, 営業・企画 等を含めたトータルな経験をさせてほしい, 修士課程の採用も検討してほしい等の要求 が出ている. 今回のインターンシップモデル事業実績では, 1都10県の233校にダ イレクトメール, 65社にコンタクトをとったうちの, 32校20社の間で94名の派 遣が成立した. 派遣期間としては, 2週間〜4週間で, 夏休みを利用した. 初年度とし ては, まずまずの実績であり今後もインターンシップモデル事業を継続していく意向を 示した.

会場に集まった約90名が参加して活発な討論が行われた. 主な意見は,

 最後に, 関根座長が総括をして, パネルを終了した. 活発な議論により予定時間を30分超過した.