研究集会

国際会議「APCCAS '98」報告

杉野 暢彦 (東工大)

APCCAS (Asia Pacific Conference on Circuits and Systems) 2 年に 1 度アジア太平洋の各国を移動して開催されている国際会議であり, 4 回目を数える今回 APCCAS '98 は 11 月 24 日〜 27 日の日程でタイ国北部 の古都チェンマイで開催された. 主催は, IEEEの回路とシステム・ソサイエティ及び 開催国タイの国立電子情報技術研究所 (National Electronics and Computer Technology Center; 通称 NECTEC) である. 2年前の APCCAS '96 は 11 月の韓国・ソウル市で雪の舞うような非常に寒い 中であったことを記憶しているが, 今回は逆に日中が30度を越える非常に 暑い地域での開催となった. 昨年のバンコク・アジア大会はまだ記憶に新しいと思うが, これが会議とほぼ同時期であったことから暑さの程度は容易に想像できよう. 通常であれば, タイの 11 月は乾期にあたり湿度が低いため, 日中の強烈な日 差しを除けば, 日本の 9 月後半のようなからっとした暑さで過ごしやすい. ところが, 今回は異常気象で乾期だというのに雨が降ったりして, 結構蒸し暑かった.

チェンマイはバンコクから北へ約 700km, かつて麻薬の密売で有名であったミヤンマー (旧ビルマ)・ラオスとの国境 ゴールデントライアングルまで約 200kmくらいのところに位置している. その歴史は非常に古く, 日本の偉人伝で知られるアユタヤの 山田長政の時代にはチェンマイにも王朝があったそうである. 町の中心部には約 2km 四方の古い城壁があり, その内外のいたるところに 古い寺院がある. チェンマイが別名タイの京都と呼ばれる由縁である. これらの中でも特に有名な寺院は, チェンマイ郊外西側の山の中腹に立つ金色の寺院 ワット・ドイステープル (タイ語でワットは寺院の意) である. 仏教への信仰の厚い地元タイの人々にとって, この寺院は一生に一度は訪れた い場所だそうである.

会議は, 11 月 24 日に学生や若手研究者向けのチュートリアル講演から幕を 開けた. 25 日朝にはタイ国政府の科学技術環境省大臣の代理として事務次官から開会の辞を 頂き, 盛大なオープニング・セレモニーがとり行われた. 続く 25〜27 日の 3 日間で 3 件のキーノート・スピーチ(招待講演)及び 4 並列 24 セッションからなる一般講演が行われた. ちょうど 10 日後にアジア大会の開幕が控えており, この地元の熱狂的ムードに後押しされたのか, 欧米を含む 24 の国と地域から約 290 名という多くの参加者があった. 参加者の大半が, タイ・日本を含むアジア地域からであったが, 遠くは欧州 (特に東欧州, バルト三国), アフリカからの参加者もあった.

キーノート・スピーチでは, アナログ関係で企画されていた招待講演 1 件が止むを得ぬ 事情により突然キャンセルとなり, プログラム編集委員長でもある東京工業大学 藤井信生教授が急遽ピンチヒッターとして登壇するというハプニングがあったが, 同教授の大変なご尽力により, プログラム上に大きな変更を残すことなく済んだ. 逆に, 先生のハプニングを感じさせない巧みな話術に感じ入った方も 大勢いらっしゃるのではないだろうか. また, この他のキーノート・スピーチは予定どおり, 当地に進出している日系企業 (株) フジクラの山内良三氏による 光ファイバーと通信について, 及びカナダ マクマスター大学の Prof. Kon Max Wong によるウェーブレット・パケット通信についての講演が行われた.

一般講演には, 世界 30 カ国から 300 件を越える非常に多数の投稿があった が, その中から選ばれた 199 件が口頭発表とポスター発表形式に分かれて 4 並列で講演され, 大変活発に討論された. これらの中には, 低電圧・低電力アナログ回路関連やシステムの集積回路化実現, 画像処理関連の発表が多かったように感じられる. また, 開催国タイでは ``タイ文字'' の自動認識の話題に人気があり, このテーマで一般講演 2 セッションが組まれた. 他にも, タイ国内の事情を反映してか, 電力や産業ロボットなどに関する 発表などもあった. これらの一般論文中から厳選された論文 4 件(内, 日本から 3 件)が 最優秀論文賞 (Best Paper Award) として, 26 日夜の懇親会において表彰されている.

さて, 国際会議への参加というと, やはりその国々独特の文化に直接触れるという ことも大きな楽しみの 1 つである.

まず食事. エスニック料理の代表 ``タイ料理'' であろう. タイ風辛み海老スープ ``トムヤムクン'' をご存じの方も多いと思う.

タイ料理と聞くと, 辛い料理だけかと思われている方もいらっしゃるかもしれないが, 料理の種類は豊富で (中華・西洋料理などから帰化した料理もある), 辛くない 系統の料理もある (さつま揚げやバナナ揚げなども見かけた). が, 全体的に味は濃いめ (甘い/辛い/酸っぱいが強調されている) で メリハリがしっかりしていると言うべきであろうか. 地元の人々は, 辛い料理の中でも, 食べてから味が次々と変化していくところを楽しむらしい. ちなみに, 辛いものを食べる習慣は消化器系がバイ菌で 汚染されないための生活の知恵だそうだ. 町の中の食堂 (といっても, オープンエア) で食べれば値段は格段に安く済む.

チェンマイで世界的に有名なものとして, 郊外に何ヶ所かある象の訓練センターが ある. ここにはサーカスなどの象使いが世界中から勉強しに来るそうである. この訓練センターに行けば, 象のショーを見たり, 象にバナナをあげたり, 更には象に乗ることもできたようである. 普段は, なかなかできない体験だけに, このエクスカージョンは非常に人気があったようである.

この他に文化的に有名なものとしてはタイの民族舞踊 (ダンス) がある. 特にチェンマイの付近には山岳少数民族が済んでおり, 町の中には 伝統的な北部タイの王宮料理 (カントーク) と一緒にこの舞踊を見せてくれるところが 何カ所かある. APCCAS '98 では, 懇親会の際にこの民族舞踊を楽しむことができた.

チェンマイを語る上で忘れてはならない名物が ``ナイトバザール'' である. ここは, 会場となったホテルから徒歩 10 分弱. ナイトバザールと言うほどであるから, 昼間は閉まっている店が 夜になると煌々と電気をつけて商売をはじめる. シーロウ (トラックの荷台を使った乗り合いタクシー) や トゥクトゥク (オート3輪のタクシー) などを使って あちこちからやってきた大勢の客 (ほとんどが観光客) で賑わう. お土産などに人気があるのは, シルク製品 (タイシルクは有名) や 手書きの絵入りの飾り傘, 扇子, T シャツ類である. 勿論, 観光客相手の商売なので, 偽物をつかまされることはあまり珍しくもない ようである (夜だけに真の姿は闇の中?). T シャツを洗ったらと絵が色落ちしたなんていうとんでもないことを聞いたこともある. 店でものを買うには値段の交渉が*必須*である. 駆け引きがうまくいけば, 最初に言った値から大体半額程度にはなる. 値札で価格が決まっている日本ではあまりできないことなので, あてもなくナイトバザールを見に行って値段交渉を楽しんでいる内に, 気がついてみたらサンタクロースよろしく大きなお土産袋を持っていたという話 も良く耳にした. 中には, 店頭で手品を披露して客引きまで引き受けてしまう真打ちも登場したらしい. 日本に帰ってきてからは買ってきたものよりも値段交渉のお土産話に花が 咲いたのではないだろうか.

最後に, 次回の APCCAS (APCCAS 2000) のお知らせを記しておく. 次回 APCCAS は, 2000 年 12 月 4 日〜 7 日の日程で中国・天津 (Tianjin, China) にて 開催される予定となっている.

是非, 多くの方々から御投稿, 御参加を頂きたい.