英文論文誌「機構デバイスの最新動向(IS-EMD2011)」小特集号によせて

ゲストエディタ          

長谷川 誠(千歳科学技術大学)

顔写真   機構デバイス(EMD:Electro- Mechanical Devices)研究 専門委員会では、関連分野の研究・開発動向を世界に広く 発信することを目指し、毎年英文論文誌C に小特集を企 画している。今年度も平成24 年9 月号への掲載に向けて 準備が進みつつある。

 機構デバイスとはリレー、スイッチ、コネクタなど電 気・光信号の接続・制御に関連するデバイスである。歴史 的には電極の物理的接触の有無で通電制御を行う電気接 点を有する機械的リレー・スイッチ類が主たるものであり、 1960〜70 年代には電話交換機のクロスバスイッチなど通 信用接点の信頼性向上が主要な研究テーマであった。その 後、伝送路では電子デバイス、光デバイスへの置換えが進 んだが、その一方で、例えば自動車への電装品搭載量の増 加に伴って車載用途でのリレー・スイッチ類の使用量が増 すなど、機構デバイスに対するニーズが縮小することはな かった。さらに最近では、データセンターなどでのエネル ギー効率改善を目指した直流給電の実用化に向けて安全 な直流遮断技術の確立が求められたり、通信・計測用途で 伝送信号の高周波化に伴って電気接点を有するMEMS リ レー・スイッチが活用されたりするなど、機構デバイスに 対する新たなアプリケーションが開拓されている。

 このような動きに対応して、機構デバイスに関連する研 究・開発に対する重要性も、以前に増して高まっている。

 電気接点の動作時には、その原理から必然的に電流遮断 や絶縁破壊に伴うアーク放電が発生することが多く、電極 の損傷や絶縁性生成物の電極への堆積などを通してリレ ー・スイッチなどの機構デバイスの信頼性に大きな影響を 与える。したがって、接点動作時に発生する接触・放電現 象の解明と理解が重要な課題となる。これまでの研究成果 の積み重ねにより現象の基本的な理解はできている一方 で、前述のようなアプリケーションの拡大は機構デバイス の使用環境の変化をもたらし、これまでとは異なる視点か ら接触・放電現象を検討することも求められている。例え ば、磁力でアーク放電を吹き消す技術は電流ブレーカー等 で実用化されてきているが、永久磁石を活用することでこ れを小型リレーに適用する動きがある。このとき、磁界中 でのアーク放電の挙動の解明は、注目される研究課題とな っている。また、電気的負荷条件の変化が新規接点材料の 使用や設計パラメータの変化を必要とし、新たな研究課題 となることもある。

 さらに、各種の計測・観察機器の進歩により従来は捉え られなかった知見が獲得され、現象の再解釈が求められる こともある。一例として、接点材料の最小アーク電流とい う特性値が、従来から言われるアークの発生下限ではなく、 数10〜100μs程度のアークがほぼ100%の確率で発生す る電流値と解釈すべきであるという提案が行われている。

 このように、機構デバイスに関する研究・開発は、従来 にも増して活発化している。海外では、年1 回開催のIEEE Holm Conference や隔年開催のInternational Conference on Electrical Contacts が主な発表の場となっている。一方、信 学会の第1 種研究会である機構デバイス研究会では、国際 セッションIS-EMD を2001 年度より年1 回開催し、国内 のみならず中国などのアジア諸国や欧米から多数の発表 を集めている。毎年の英文論文誌での小特集は、この国際 セッションで発表された内容を中心に、重要な知見の発信 を目指したものである。発行を重ねるにつれて海外での認 知度も高まり、入手を希望する声も多くなっている。今回 の小特集も、期待を裏切らない内容になると考えている。

 最後に、本小特集の取りまとめにあたり、小特集編集委 員会の編集委員各位及び査読にご協力頂いた査読者の皆 様のご協力に、この場を借りて感謝いたします。特に、編 集幹事の関川純哉先生(静岡大学)には投稿論文の管理な どに多大のご尽力を頂いており、重ねて御礼申し上げます。

 

著者略歴:

1986 年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業、1991 年同大学 大学院理工学研究科電気工学専攻博士課程修了。工学博士。2001 年千歳科学技術大学光科学部光応用システム学科専任講師に着 任。現在、同大学総合光科学部グローバルシステムデザイン学科 教授。機構デバイス研専幹事補佐・幹事・副委員長、英文論文誌 C編集委員を歴任。平成17 年度エレクトロニクスソサイエティ 活動功労者表彰。