時代と共に歩む機構デバイス
=今,機構デバイスが面白い=

     機構デバイス研究専門委員会
     委員長
     玉井輝雄(兵庫教育大)

機構デバイスとは何か?導体デバイス等にくらべて,専門の人以外は必ずしもピンとこ
ないかもしれない.機構部分で電気,光,磁気等が関係する部分を駆動するようなデバ
イスの総称である.昔からある典型的な例では電磁リレーがある.しかし,決して陳腐
なものでなく,現在ではエレクトロニクスを支える重要なデバイスとなっている.ちな
みに,リレー,コネクタ,スイッチ,マイクロモータ,ハードディスク等多岐にわたり
,電気信号を処理するものと,光信号を処理するもの等に分かれる.さらに,マイクロ
マシン技術によってミクロ化する方向が模索されている.
  リレー,コネクタ,スイッチ等々のデバイスの心臓部は,電気接触面であり,光を扱
うデバイスではガラスの表面等であって,表面現象や界面現象が深く関係し,表面科学
そのものである.現在,表面を構成する一つ一つの原子が観察可能となり,どのような
原子分子から構成されるかも分かるようになった.しかし,実際に使われている表面と
なると,非常に複雑難解である.たとえば,金属表面の光学定数を測定して得られる値
を,Landolt-Bernstain の定数表で比較すると,かなり違った値で驚くが,金属の表面は
Si ウエハーのように一義的に定まらないということを強く感じる.
  電気接触部での問題は接触抵抗特性であって,いかに長期に渡って低い値に保つかと
いうことが課題である.この接触抵抗問題を歴史的にさかのぼると,なんと 1826年の
Georg Simon Ohm の論文「金属の導電法則の決定ならびにボルタの電池列,及びシュヴ
ァイガーの検流計に対する試みの理論」に出てくるのである.電気抵抗の概念が確立し
ていないこのとき,オームの法則を発見した G.S.Ohm は,驚くべき事に接触抵抗の
問題に遭遇し,その問題を認知していたのである.以来,今日のエレクトロニクス全盛
の時代になっても,将来に渡って接触抵抗は永遠の課題として残って行くのであろうか
.また,大学の一研究者の立場で見ると,接触抵抗は大変興味深いものがある.現象面
で見れば,金属表面を覆う汚染物質の代表例は酸化物であって,それは絶縁体や半導体
である.これが接触面間に介在すれば接触抵抗が増加するわけであるが,非常に薄けれ
ばトンネル効果によって電流は流れる.もし半導体であれば,ショットキー障壁が出る
可能性があり,接触部はダイオードと化すのである.したがって,接触抵抗はオーム性
からはずれ非線形抵抗となる.さらに,この様な状態では接触抵抗は光感受性を持つか
もしれないし,発光現象を伴うかもしれない.
  電気接触部とくにコネクタはもとより,ハードディスクとヘッドとの接触で生ずる界
面現象はトライボロジーの領域でもあり,現象面では大変興味深く,メカノケミカル反
応やエクソエレクトロンの発生等が認められている.
  さらに,機構デバイスの動向として顕著なものに,マイクロ化があげられる.マイク
ロリレー等はその極限に来ている感がある.駆動方法も電磁コイルによるものからヒス
テリシスのない圧電セラミックの応用が考えられたり,静電力の利用が考えられたりし
ているが,これらと共にマイクロマシン化の方向も打ち出されており,今後益々,従来
の形を破った新しい機構デバイスの出現が期待されている.
  今や,機構デバイスは従来にもまして面白くなってきている.多くの読者がこの分野
に,より一層の関心を持ってもらいたいと願っている.