こんなツール,使っています
GPUを利用したPyTorch入門
こんなツール,
使っています
1
はじめに
近年,画像認識や自然言語処理などの分野で深層学習(ディープラーニング)技術が発展している.深層ニューラルネットワーク(DNN: Deep Neural Network)は,膨大なデータから特徴パターンを学習し,高いデータ分析能力を持つモデルを構築できるため,実世界の課題解決において重要な役割を果たしている.
深層学習モデルには数百万から数億もの学習可能なパラメータが含まれており学習プロセスによって最適化されるが,それには膨大な計算量が必要となる.また,より良いモデルを得るためには,幾通りもの学習プロセスを繰り返し実行する必要があり,モデルの学習には膨大な時間を要する.そこで,並列計算に優れたGPU(Graphics Processing Unit)がモデル学習には必須となっている.GPUは多数の計算コアを搭載しており,大量の行列・ベクトル演算を同時に実行できるため,深層学習モデルの学習速度を飛躍的に向上させることができる.
本稿では,深層学習モデルを学習する際にPython言語で用いる「PyTorch」という深層学習フレームワークと,PyTorchでのGPUの利用方法を紹介する.PyTorchは産業界で広く採用されており,特にOpenAIやTeslaといった大手テクノロジー企業で積極的に活用されている.OpenAIは,2020年に深層学習フレームワークをPyTorchに標準化したことを発表した.Teslaでは,自動運転技術の開発においてPyTorchを使用し,車線検出・歩行者追跡・信号認識などのタスクを処理している.
深層学習は,もはや一般的な技術となり様々な情報が世にあふれているため,深層学習そのものについてはほかの情報を参照されたい.本稿では視点を少し変え,単なるPyTorchの紹介とせず,学習時間を短縮し効率よくモデルを学習するために,GPUを活用したモデル学習方法やその効果について解説する.具体的なコード例を交えながら,初心者にも理解しやすい形で説明し,GPUがどのように深層学習モデルの学習と最適化に役立つかを説明する.この内容が読者にとって深層学習への第一歩となることを願う.
2
深層学習とは
PyTorchフレームワークを紹介する前に,まず,簡単に深層学習について説明する.
深層学習は,人間の脳の神経細胞(ニューロン)の働きを模倣した人工ニューラルネットワークを多層に重ねた構造を持つ機械学習手法である.従来の機械学習手法では,入力データに対する特徴量の設計や選択を人間が手動で行う必要があったが,深層学習では大量のデータから自動的に特徴を学習することができる点が大きな特徴である.
2.1 ニューラルネットワークの基本構造
図1に示すように,深層学習の中心となるDNNは,一般的に入力層,隠れ層,出力層という主要な層で構成されている.それぞれの層には複数のノード(円で表示)があり,層と層の間はエッジ(線)で接続されている.層と層の間にあるエッジは実数wを持ち,DNNの計算に使われる.このエッジの値は「パラメータ」(重み)と呼ばれ,学習プロセスでこれを最適化する.
入力層では画像などのデータを数値に変換して受け取り,隠れ層ではそのデータの特徴を抽出し,出力層では「この画像は犬」などの判別結果を出力する.「深層」とは,この隠れ層が複数存在することを指し,層が多いほどDNNがより複雑なパターンを学習できるようになる.一方で,層が増えDNNが大きくなるほどノードとエッジの数が増加し,それに伴ってパラメータも増加するため計算に多くの時間を要するようになる