解説論文
テラヘルツ帯無線通信におけるアンテナ・伝搬技術
小特集
第6世代移動通信システム(6G)の実現に向けての取組み
Summery 超高速無線通信を実現する手段として,0.1~10 THz の電磁波を利用したテラヘルツ無線の研究開発が進められている.テラヘルツ無線の研究開発の初期段階では,屋外固定無線の利用が主に検討されていたが,テラヘルツ帯デバイス技術の進展に伴い,移動体通信,無線LAN,近接無線など様々なユースケースでの利用の検討が進められるようになった.これらのユースケースを実用化するためには,ユースケースごとの電波伝搬特性を解明し,その伝搬特性に応じたアンテナ・システム開発を行う必要がある.本論文では,テラヘルツ帯を使用した「フロントホール/バックホール無線」,「移動体通信/無線LAN」,「近接無線」,の三つのユースケースにおける電波伝搬特性評価技術,及びアンテナ技術について解説する.
Key Words テラヘルツ,無線,アンテナ,伝搬
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はじめに
近年の爆発的なデータトラヒック量の増加に対応するために,無線通信システムの高速化に対する需要が高まっている.無線通信システムの高速化を実現する手法の一つが,周波数が0.1 THzから10 THzの電磁波であるテラヘルツ波の利用である(1).テラヘルツ波はその発生・検波が困難であったため,これまで産業的に未利用であった.このため,一つの無線システムが数十GHz以上というマイクロ波では実現し得ない広い帯域を使用することも可能である.
近年,半導体デバイス技術が進展し,100 GHzを超える周波数帯で動作するICの開発が可能になったことに伴い,テラヘルツ無線に関する研究開発が活性化している(2),(3).更に,この周波数帯の産業利用に向けて,周波数の国際割当を決める標準化会議,2019年世界無線通信会議(WRC-19)において,275~296 GHz,306~313 GHz,318~333 GHz,356~450 GHzの四つの帯域が,移動・固定無線の利用周波数帯として特定された(4).これらの技術や標準化の進展に伴い,これまでテラヘルツ信号の発生・検波用デバイス開発が主流であったテラヘルツ無線の研究開発に加えて,社会実装に向けたテラヘルツ無線システム開発が進められている(5).
テラヘルツ無線システムの実用化に向けた重要な技術の一つがテラヘルツ帯におけるアンテナ・伝搬技術である.アンテナは無線システムの通信距離や移動範囲,移動速度,他システムとの干渉などを決める重要なデバイスである.また,伝搬損や伝搬遅延特性,マルチパスフェージングなどの基本伝搬特性の評価は,無線システム設計のパラメータを決める上で重要な要素である(6).テラヘルツ波はその短波長性,高周波性から,既存の無線通信で主に使用されているマイクロ波と比較して伝搬特性が大きく異なっている.特に,直進性が高い,自由空間伝搬損や降雨減衰が大きい,という特性から,マイクロ波を使用する無線通信のように,「どこでもつながる」というシステムを構築するには,新たな技術開発が必要である.このため,テラヘルツ無線のユースケースごとにテラヘルツ帯の伝搬特性を把握し,その伝搬特性から必要となるアンテナの仕様を決めていく必要がある.図1にテラヘルツ無線システムの代表的なユースケースを示す.本論文では,これらの「フロントホール/バックホール無線」,「移動体通信/無線LAN」,「近接無線」におけるアンテナ技術,及び伝搬特性における課題について解説を行う.
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フロントホール/バックホール無線
図2に5G/6G移動体通信におけるネットワーク構成を示す.通信事業者の建物に設置されている携帯電話ネットワークを制御するコアネットワーク
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東京大学生産技術研究所,東京都
Institute of Industrial Science, The University of Tokyo, Tokyo, 153-8505 Japan