モデルの概要

 自由空間伝搬損失は,送受信アンテナ間に反射物や遮蔽物などがない真空での空間における伝搬損失である.自由空間伝搬損失は,同一偏波の2つのアンテナの一方から他方へ電力を伝達する場合に,アンテナの特性と電波の電力密度の空間的広がりを考慮することで定義される量である.

 無指向性で損失のない絶対利得\(G_t\)の送信アンテナに,\(W_t\)[W]の電力が供給された場合,その地点から\(d\)[m]離れた地点に放射される電波の電力密度\(P\)は電波が球面状に広がることにより,

\(
P = \frac{W_t G_t}{4 \pi d^2} \quad {\rm [W/m^2]}
\tag{1}
\)

で与えられる.また,この送信アンテナの実効面積を\(A_t\)[m2]とすると,式(1)は

\(
P = \frac{W_t A_t}{\lambda^2 d^2} \quad {\rm [W/m^2]}
\tag{2}
\)

と変形できる.ここで実効面積\(A_t\)は,

\(
A_t = \frac{\lambda^2 G_t}{4 \pi} \quad {\rm [m^2]}
\tag{3}
\)

である.ただし,式(3)において\(\lambda\)は波長を表し,式(3)は

\(
W_{at} = \frac{\lambda^2}{4 \pi} \sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}} G_t |E|^2 \quad {\rm [W]}
\tag{4}
\)
\(
P′ = \sqrt{\frac{\epsilon_0}{\mu_0}} |E|^2 \quad {\rm [W/m^2]}
\tag{5}
\)

で表されるアンテナの送信最大有効電力\(W_{at}\)と,放射される電波の単位面積当たりの電力\(P’\)の比 \(A_t=W_{at}/P’\) より求められる.ただし,\(\epsilon_0\):真空の誘電率[F/m],\(\mu_0\):真空の透磁率[H/m],\(E\):送信アンテナから放射された電界強度[V/m]である.
 次に,この電波を実効面積\(A_r\)[m2]の受信アンテナで受けると,そのアンテナから取り出すことができる最大電力\(W_a\)は,

\(
W_a = \frac{A_t A_r}{4 \pi} W_t \quad {\rm [W]}
\tag{6}
\)

のように表される.この関係はフリスの伝達公式と呼ばれるものである.式(6)の実効面積\(A_t\),\(A_r\)を利得で表すと,

\(
W_a = \frac{\lambda^2 G_t G_r}{16 \pi^2 d^2} W_t = (\frac{\lambda}{4 \pi d})^2 G_t G_r W_t = \frac{G_t G_r W_t}{L} \quad {\rm [W]}
\tag{7}
\)

となり,ここで

\(
L = (\frac{4 \pi d}{\lambda})^2
\tag{8}
\)

 を自由空間伝搬損失と定義する.また式(8)をデシベルで表現すると

\(
L_{dB} = 20 \log_{10} d + 20 \log_{10} f – 147.6 \quad {\rm [dB]} 
\tag{9}
\)

となり,\(f\)は電波の周波数を表す.
 多くの伝搬環境では,大地や山岳などによる反射,回折,大気による屈折,電離層の影響などを考慮する必要があり,最終的に受信可能な電力\(W_r\)は,

\(
W_r = A_p W_a \quad {\rm [W]} 
\tag{10}
\)

と書くことができる.式(10)の\(A_p\)は通過利得係数と呼ばれ,この係数について考察することが電波伝搬の問題を考えることであると言える.

数式

\(
L = (\frac{4 \pi d}{\lambda})^2
\tag{8}
\)

パラメータ

記号パラメータ説明[単位]
\(L\)自由空間伝搬損失
\(d\)送受信間距離 [m]
\(\lambda\)波長 [m]

計算例

参照

[1] 虫明康人,アンテナ・電波伝搬,コロナ社,東京,1961.

[2] 進士昌明,無線通信の電波伝搬,コロナ社,東京,1992.