モデルの概要

移動通信環境における受信信号強度の変動は、その発生メカニズム、および、その結果としてその変動の空間的スケールにより、瞬時変動(マルチパスフェージング)、短空間中央値変動(シャドウイング)、長区間変動(距離特性)、の3要素に分類できる

マルチパスフェージングをモデル化するにあたり、直接波の有無によって一般に二つのモデルが考えられている。直接波の無い反射・回折波などのマルチパスのみによって伝搬路が形成される環境を、レイリーフェージング環境、直接波が存在しそれにマルチパスが重畳する環境を、仲上-ライスフェージング環境と、呼び、それぞれの環境のフェージングモデルは、レイリーフェージングモデル 、仲上-ライスフェージングモデルと呼ばれる。レイリーフェージングモデルは直接波が無いことから、一般に仲上-ライスフェージングモデルよりも通信には厳しい環境となる。通信システムでは、安全サイドにたった、つまり余裕をもった、設計をするのが通常であり、回線設計や方式シミュレーションなどのシステム設計では、レイリーフェージングモデルが用いられることが多い。

仲上-ライスフェージング環境となる無線通信システムの例として以下が挙げられる。
・移動体衛星通信
・無線LANなど屋内無線通信
・無線アクセスシステム
・ミリ波移動通信システム

数式

•振幅分布:\(f_r (r)\)

\(
f_r (r)=\frac{r}{\sigma^2} \exp ⁡\left( – \frac{a^2+r^2}{2\sigma^2} \right) I_0 \left( \frac{ar}{\sigma^2} \right)
\tag{1}
\)
 (\(I_0\):第1種0次変形ベッセル関数)

•位相分布:\(f_\theta (\theta)\)
\(
f_\theta (\theta) = \frac{1}{2 \pi} \exp ⁡( – \frac{a^2}{2\sigma^2} ) [ 1+\sqrt{\frac{\pi}{2}} \frac{a \cos⁡ \theta}{\sigma} \exp ⁡( \frac{a^2 \cos^2⁡\theta}{2\sigma^2} ) \{ 1+{\rm erf} ⁡( \frac{a \cos⁡\theta}{\sqrt{2} \sigma} ) \} ]
\tag{2}
\)
 (\( {\rm erf} \)⁡: 誤差関数)

•[平均電力]=\(a^2+2\sigma^2\)

•ライスファクタ(Kファクタ):\(K≡\frac{a^2}{2\sigma^2}\)

シミュレーションなどでは、直接波を\(a\)(定常波)、散乱波をレイリーフェージングに沿う確率変数\(s\)(\(a\)および\(s\)の平均電力は1とする)として、仲上-ライスフェージングに従う確率変数\(z\)を以下のようにして生成する場合も多い。この場合\(z\)の平均電力は1となる。
\(
z = \sqrt{\frac{K}{1+K}} a + \sqrt{\frac{1}{1+K}} s
\tag{3}
\)

パラメータ

記号パラメータ説明[単位]
\(K\)ライスファクタ (直接波電力/平均散乱波電力)

注意:上の図では、定常波の振幅\(a\)と散乱波電力\(2\sigma^2\)を用いて表しているが、フェージングによる信号の分布は両電力の比である\(K\)のみに依存する。つまり、仲上-ライスフェージングの本質的なパラメータは\(K\)一つだけである。

計算例

参照

多くの文献があるが、例として以下がある。

唐沢好男, ディジタル移動通信の電波伝搬基礎(改訂版)第6章, コロナ社, 2016.