*HCS研究会 2008年10月参加報告記 [#uee35f43]
報告者: 永井聖剛(産業技術総合研究所)

**報告 [#c3e325de]
HCS2008年10月研究会は日本顔学会大会(フォーラム顔学)内の口頭セッションとして,10月11日に東京大学にて開催された.150人程度の方が参加し,日本顔学会大会長の原島先生のご挨拶の後に始まったHCS研究会セッションでは,4件の研究発表が行われた.

京都大学の佐藤弥さんの発表は非行少年の表情認識に関する内容であった.これまで,非行少年の表情認識には問題があると指摘されてはいるものの,その詳細を明らかにする試みは無く,非常に重要な研究と位置づけられる.実験では各表情顔を提示し,適切な表情ラベルを選択した.実験の結果,非行少年群では,嫌悪,悲しみ表情の認識成績が統制群よりも低く,また嫌悪表情を怒りと誤認しやすいことが明らかとなった.すなわち,非行少年では他者表情をうまく認識できず,怒り表情へのバイアスがあることが示唆された.このような結果を一般的に受け入れる前に,他の刺激,他の実験方法での追試も必要と思われるが,非行少年と表情認識との関連性を示したことは非常に興味深い.

情報通信機構の角薫さんの発表では,エージェントとユーザとの間のインタラクションにおいて,エージェントの表情,言葉の組み合わせが,ユーザの応諾行動にどのような影響を与えるかを調べた.実験では,ユーザに感情を喚起するような状況で,エージェントの勧誘に対する応諾行動がどのように生起するかをWeb上のコンテンツにアクセスして解答する形式のアンケート調査を行った.実験の結果から,ユーザの表情,言葉とのマッチ,ミスマッチにより,応諾行動,ユーザが感じる印象に違いが生じることが明らかとなった.このような知見は,ユーザに好印象を与えるようなエージェントの開発に資するものと期待される.

京都大学の石垣智子さんは,あるモデル顔の写真を,別の顔の陰影情報を用いて加工するシステムに関する発表を行った.心理データによる検証が今後不可欠とは思われるが,本研究で提案されたシステムを用いることによって,目標となる理想的な化粧後の顔を定量的に表現できるなど,重要な応用的可能性があるものと期待された.

また,私からは,Classification image(CI)という特殊な心理物理実験手法を用い,個人の顔認知処理の方略を検討した研究を発表した.この手法は画像ピクセル単位の高空間精度で視覚情報処理に密接に関わる,画像領域を明らかにできるというメリットを持つ.従来の研究では定型発達者は目周辺,自閉症者は口周辺の情報を主に用いるという方略の違いが指摘されていたが,高空間精度で検討可能なCIを用いた本研究の結果からは,自閉症者と定型発達者との間に顔情報処理の明確な差異は無いこと,加えて,同じ集団内でも大きな個人差があること等が示された.

研究会全体を通して,日本顔学会の会員も含め活発に議論がなされ,非常に有意義なセッションとなったと思われます.最後になりましたが,プログラムの作成や会場設営等,今回の研究会開催にご尽力くださった全ての皆様にこの場を借りてお礼申し上げます.


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