HCS研究会 2008年3月参加報告記 †

報告者: 松田昌史 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所 / HCS研究会幹事補佐)

概要 †

2008年3月22-23日，北九州学術研究都市産学連携センターで HCS研究会(2008年3月)が行われた．筆者も研究報告をさせていただき，お集まりのみなさまと活発で有意義な議論をさせていただきました．自分の研究を進める上で，貴重な糧となりましたことをこの場を借りてお礼を申し上げます．

以下では，一研究者としての立場を離れて，HCS研究会・幹事補佐としての立場から，研究会への参加報告をいたします．

研究発表者，聴講者ともに幅広い分野／観点を持った研究者が集まり，忌憚無く活発な議論が繰り広げられた．発表件数は13件で，実験心理学研究，ヒューマン・エージェント・インタラクション，災害/障害者への情報提示，人体の生理反応取得法など，研究トピックも多岐に渡っていた．参加者名簿への記名者数数えたところ，28名の参加があった．

また，23日昼に行われた懇親昼食会では，香川大学の澤田秀之先生ら*1に2007年度のヒューマンコミュニケーション賞が贈られた．

研究フォーカスの広さ †

今回の研究会のテーマは「コミュニケーション一般」と定められており，そもそも幅広い研究報告を集める土壌があった．その上，信学会ヒューマンコミュニケーショングループによる HCGシンポジウムの一環として開催され，他研究会への参加者がふらりと覗き込みやすかったこともあり，研究発表／聴講者ともに幅広い分野・観点にまたがっていた．まさしく，近年のHCSらしい研究会であり，年度を締めくくるにふさわしい会議であったと思う．

普段から，HCS研究会は良くも悪くも，研究フォーカスが曖昧であると指摘されている．一方で，フォーカスを曖昧に留めておくことで，より分野横断的な研究活動が促進されると期待が寄せられている．他方で，焦点が定まらないために，研究会としての求心力が弱く，結果として研究者間の協力体制が脆弱であるという批判もある．今後の研究会運営に関して，多くの関係者が頭を抱えているところである．

この点に関して，筆者は，研究フォーカスの曖昧さによるメリット(分野横断的な研究活動)をより重視し，その点を活かすべきという意見を有している．個別の研究者にとっては，本人の専門に合致したハードコアな研究コミュニティの1つや2つには既に参加していることだろう．また，ヒューマンコミュニケーション・グループ内でも，2種研究会／3種研究会として，より専門的な研究会を立ち上げる術は用意されている．それらの運動に対して，HCSはあえて幅広い研究を受け入れる素養を有することを，最大の特徴として差別化を図るべきではないか．浅く広い議論を行えるサロンとして，HCSは特徴を活かしていくべきではないか．

印象に残った発表・議論 †

たとえば，NTTの永徳先生が発表した聴覚障害者に対する情報提示法に関して*2，単なる技術的側面だけでは無く，社会インフラとしての是非という倫理・政策的議論にまで及んだことは，筆者にとって刺激的であった．その研究の背後にある研究者の社会観，研究の社会的意義など，通常の研究活動では黙殺されているメタな観点が議論の俎上に載せられるということは，他の研究コミュニティではなかなか得がたい経験であった．

また，早稲田大の川瀬先生らの研究報告*3からは，運動リハビリ支援という社会問題が存在していることを知る機会が得られた．普段から，新聞・テレビ・書籍等にアンテナを張っていれば知りえた知識ではあるが，個人でそれをするのは難しい．研究会の場において，半ば受動的に情報を収集することで，新たな視界が開けたことは有益であった．

もちろん，メタな観点にかんする収穫だけではなく，リサーチそのものでも得られるものは多かった．例えば，京都大学の野村先生の発表*4で紹介されていた，人の顔に関する実験研究のテクニックは参考にすべき点が多く，有益であった．