HCS/VNV合同研究会(2009年10月)参加報告記

埴淵俊平(大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻 西田研究室 修士1回生)

 私はこのHCS/VNV研究会が学外で発表する初めての機会でした。発表は2日目だったのですが、1日目から参加させていただき、雰囲気を知ることができました。当初は厳格な雰囲気で進行していくものだと思っていたのですが、いざ始まってみると、和やかな雰囲気で進行し、質問者が発表者の研究をただ批判するのではなく、どうするともっと面白い研究になるのかを具体的にコメントする点が印象的でした。

 私は、表情表出時間が異なれば、表情が他者に与える印象を増減させることに注目し、表情表出過程に注目した笑顔トレーニング支援手法と手法を用いて得られた実験結果について発表しました*1。発表時間が25〜30分と私の感覚では長く、途中で喋ることを忘れてしまうことが幾度とありましたが、オーディエンスの方は理解しようと一生懸命聴いて下さっており、質問も多々していただけました。私が質問に対して返答に窮していたときに、特に司会の京都大学・平山先生、NTT・松田さん、東京工科大学・岡本先生が代わりにコメントして下さり、また私の研究がより面白くなる実験手法などを提案して下さるなどのフォローをしていただいたおかげで発表も無事に終了することがきました。今後研究をする上で非常に参考になりました。

 印象に残った他者の発表は、大阪大学の前川さんの「らくがき帳のスタイルと内容に関する分析」の研究でした*2。この研究は飲食店に置かれている「らくがき帳」はCMCコミュニケーション発展のために、テキストコミュニケーションの役割を果たしているかどうかを調査するものであり、具体的に4店舗・24冊のらくがき帳の文字情報・絵情報などの情報の分類を行なったものでした。「らくがき」に込められた情報の意味をさらに定量的に解明できれば、画像を用いた新たなCMCコミュニケーションの実現が可能になるかもしれず、大変興味深い研究でした。また招待講演の三宮先生の「人間のコミュニケーションにおけるメタ認知」も印象に残りました*3。この講演は人間のコミュニケーションを理解するにはメタ認知を把握することが重要だという内容でした。認知とメタ認知の境界は曖昧であり、定義するのも、観測するのも困難だと思っていましたが、様々なアプローチでメタ認知を解明しようとしていることを知ることができ、非常に有意義な時間でした。

今回は翌日の発表のため、初日の深夜に行なわれる議論会に参加することができなかったのですが、次回研究会に参加するときは、皆様と朝方にかけてまで熱い議論を交わしたいと思います。

最後になりましたが,研究会の運営,会場設営などを行っていただいたマネジメントの方々、有効な知見・提案を下さった参加者の方々にこの場を借りて感謝の意を申し上げます.ありがとうございました.

山本怜(大阪大学基礎工学研究科システム創成専攻 西田研究室 修士1回生)

2009年10月のHCS/VNV合同研究会は10月8,9日の2日間に渡り,京都市のコミュニティ嵯峨野で開催されました.言語コミュニケーションや対話構造などの幅広い視点から,人間の言語・非言語コミュニケーション活動に関する研究について議論し合う研究会でした.

研究会の雰囲気

研究会では,議論を重視し,時間を多く確保するという研究会の方針に違わず,各発表に対し活発な議論が交わされていました.発表者も質問をしていた方も,しっかりと自分の考えや仮説を持っていて,それに基づいた議論が行われていたように感じられました.しかし,発表内容も議論の内容もかなりレベルが高く,ついていけなくなることがあったのが残念でした.

興味をもった研究の紹介と、それらに対するコメント

様々な研究発表がありましたが,特に東芝の山本さんの「高齢者対話インタフェース」に関する発表*4は興味深いと感じました.現在の技術では,ロボットを実生活の中に利用するにはまだまだ問題があるが,その問題をユーザに許容してもらおうとするのはおもしろいアプローチだと思います.

そのほかには,東京大学の高橋さんの「非言語コミュニケーションが伝える感性」に関する研究*5は素晴らしい研究だと思いました.内容としては接触行動を伴う非言語コミュニケーションがどのように感じられるかを調べた研究でした.接触行動の印象を評価するのに,写真とオノマトペを用いている点が興味深く思えました.

電子情報通信学会の研究会ということで,工学系の発表が多いのではないかと思っていましたが,普段触れる機会のない心理学や文学的な内容もあり全体的に非常に興味深い内容でした.

自分の発表の概要と、研究会で得られたもの

私は先端科学技術に関する一般の人々の意見(public opinion)の取得手法の提案というテーマで発表しました*6.先端科学技術に関する意思決定に一般の人々が参加する意義は高いが,一般の人々が先端技術に関して自分の考えを明確に提示するのは,容易なことではない.そこで,意見表明に新しい形式のコミュニケーションを組み込むという内容でした.発表後には,集団極化や比較分析などに関するコメントを頂きました.どのコメントも研究のポイントを捉えたものであり,今後の研究の方針を検討するときの参考にしたいと思います.

最後になりましたが,プログラムの作成や会場設営等,今回の研究会開催にご尽力くださった全ての皆様にこの場を借りてお礼申し上げます.


*1 埴淵俊平・伊藤京子・西田正吾. 表出時間の変化に伴う笑顔の印象変化の分析: 表情表出過程トレーニング支援に向けて. 信学技報, 109(224), 35-40. 2009.
*2 前川隆史・松村真宏. らくがき帳のスタイルと内容分析. 信学技報, 109(224), 53-58. 2009.
*3 三宮真智子. [招待講演] 人間のコミュニケーションにおけるメタ認知. 信学技報, 109(224), 1-4. 2009.
*4 山本大介・小林優佳・横山祥恵・土井美和子. 高齢者対話インタフェース: 『話し相手』となって,お年寄りの生活を豊かに.. 信学技報, 109(224), 47-51. 2009.
*5 高橋康介・三橋秀男・則枝真・仙洞田充・村田一仁・渡邊克巳. 非言語コミュニケーションが伝える感性: オノマトペによる心理学的検討. 信学技報, 109(224), 11-16. 2009.
*6 山本怜・伊藤京子・大西智士・西田正吾. インターネットを介した public opinion 表明方法の提案: 先端技術をテーマとしたゆるやかなコミュニケーション. 信学技報, 109(224), 41-46. 2009.
Last-modified: 2020-12-04 (金) 06:03:59

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