解 説
データ利活用によるものづくりDXの実現

小特集
ディジタル化による新たな価値の創造

解 説

データ利活用によるものづくりDXの実現

石田 勉 Tsutomu Ishida 富士通株式会社
芳川裕基 Yuki Yoshikawa 富士通株式会社
渡部 勇 Isamu Watanabe 富士通株式会社
大島竜一 Ryuichi Oshima 富士通株式会社
土屋 哲 Satoshi Tsuchiya 富士通株式会社

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はじめに

日本のものづくり産業は,今後,中長期的な視点で,世界での競争力低下が懸念されている.その要因として,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめとした不確実な要素への対応力の不足,ものづくりに必要な原材料価格の高騰・半導体などの部素材不足,そして少子高齢化によるものづくり人材の不足などが挙げられる(1)

これからの日本のものづくりには,上記の問題に加え,地球温暖化への責任という要素も加わり,大きく下記の三つの課題があると考える.

(1)サプライチェーンの強靭化

(2)カーボンニュートラルへの対応

(3)ディジタルトランスフォーメーション(DX)による競争力向上

本稿では,これからのものづくりにおける三つの課題に対し,富士通としての取組み事例を紹介する.我々は,特にデータ利活用を中心として,それぞれの課題解決に取り組んでいる.以下,本稿の構成として,2.で近年の日本のものづくりの課題について詳細を解説し,3.で富士通の具体的な取組み事例(データドリブンな部品管理による在庫最適化,カーボンニュートラルに向けた投資計画最適化,AI モデルのライフサイクルマネジメントによる製造品質向上)を紹介し,4.ではまとめと今後の課題を述べる.

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日本のものづくりの課題

これからの日本のものづくりにおいて,大きく三つの課題,サプライチェーンの強靭化,カーボンニュートラルへの対応,DX による競争力向上があると我々は考える.本章では,各課題について詳細を解説する.

2. 1 サプライチェーンの強靭化

近年のものづくりにおけるサプライチェーン周りの問題として,新型コロナウイルス感染症が世界全体に予測不可能な形で被害をもたらし,物流の停滞を引き起こし,それにより部素材の供給不足や原材料価格の高騰が生じた.局所的ではあるが,自然災害による物流の停滞も頻繁に発生している.また,半導体に関しては,世界規模での情報化社会への変化に伴い,半導体の需要量が供給量を上回り,引き続き入手困難な状況が続くことが予測されている(2)

上記の問題に対し,サプライチェーンの強靭化が求められている.具体的には,世界的な不確実性の高まりが想定される中で,自社のみの被害想定だけではなく,サプライチェーン全体を俯瞰し,調達先の分散などによる,多面的なリスク対応が挙げられる.また,そのサプライチェーンの中で,限られたリソース(供給される部素材やオペレーションする人員,倉庫,設備など)で,製品を安定的に製造・供給し,最大限に利益を上げていく仕組み作りが必要である.

サプライチェーンの強靭化において不確実性への対応が求められる中で,我々はデータドリブンな意思決定を行っていくことが重要と考えている.サプライチェーン強靭化におけるデータドリブンなアプローチとは,サプライチェーンに関する実績・計画といったデータを集約し,現状のサプライチェーンの可視化,可視化からボトルネックとなる原因の特定,原因を抑え込むための意思決定とその検証のサイクルを早期に回すこと,と考えられる.

2. 2 カーボンニュートラルへの対応

これからのものづくりには,環境保全への配慮も求められている.日本を含めた各国政府は,2050 年までのカーボンニュートラルを目指すことを表明しており,日………