「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部への提言」 を受けた
  記者発表会での質疑応答の様子

質疑応答に先立ち、各学会代表から簡単な補足説明がなされ、その後記者との質疑応答に入りました。以下にその模様を記します。(敬称は略します)

▼原島:
ディジタルディバイドは、大変な社会問題になります。インフラは政府又は企業 の努力で進むが、アメリカのディジタルディバイドは富の有る無しにかなり依存し、日本の場合は富より年齢に依存しています。 インターネットは一種のテレパシーですので、テレパシーを持っている人と持ってない人が、社会に混在したら必ず混乱しますので、社会に差別が出ない様、充分に気を付ける必要があります。

▼村岡:
人材育成については、情報処理、IT技術が大事でありますが、現実に日本に有 る約500の大学でIT技術を満足に教えられる所が少ない。しかし、 人材育成は大きな課題であります。その中で今回の提言の中にもあるJABEEは、大学の教育を国際的に整合性のあるものにする事が大事で、特にその中で、倫理観を持った技術者を育てる事が大事であります。倫理観を育てると言う事は簡単ですが、現実には、なかなか困難で教師も同様に苦しまなければいけないので、今後の大きな課題の一つです。

▼青木:
ITの発展と浸透により、新しい産業が起きたり、個人の生活や価値観が変わる など、ITが世の中に与える影響は極めて大きいものがあります。その際、技術だけではなく、新しい技術を基にしたビジネス、そのビジネスが社会に受け入れられるための法律(制度)の3つの調和が取れないと、スムーズに変化していかないと思います。 我々3学会は、合計約10万人会員がおりまして、日本のIT関係の学者・研究者・エンジニアの集団として研究以外にも様々な活動をしています。単に今回提言をしただけでなく、様々な場で今回の提言の主旨に沿って、この10万人が活動して行くつもりです。ある意味では社会に大きな影響力を与えるでしょう。

記者:(各学会に)技術系と融合して取組みのできる倫理や法律の専門家は、現実に居ますか?

▼三木(電通大):
本会では、情報文化と倫理研究専門委員会を設置(平成7年4月設置) して活動していますが、設置以前から倫理問題を重要視していました。 セキュリティを突き詰めて行くと倫理に突き当たり、また、情報技術と法律・制度の関係を議論する必要がでてきますし、更には、文化(情報文化)が絡み合う事を認識しています。理系と文系の融合は、最初は難しかったが、最近は文系の方の中にも本会の会員になって活動して下さる方も出てきていますし、倫理綱領作成(平成10年7月21日作成)にも協力して頂きました。又、現在は大学ネットワークや学校インターネットの運用ガイドラインの検討や、情報倫理の教育についてその内容や教育方法の検討、そういう課題についての海外調査などについて理系・文系の委員が一緒に協力し合って検討を進めています。

記者:ITと環境問題の関連は?

▼岸田(NEC):
ITが環境にどう具体的に貢献できるのかについて申し上げます。ITと 環境は「革命」と称され、同時並行的、独立に始まっていますが、その2つの関係は、学問的には検討されているものの、現在の段階ではトータルにどのような状況となるか分りません。 ITと環境の関係を、次の3つの要素で理解しています。

  1. IT機器で、家庭に有るパソコン、オフィスのサーバなどを新たに導入しますと電気を使うなどを通じ、環境負荷が増大します。
  2. ITを導入する事によって社会や企業の業務が効率化する事は、定量的にも明らかです。ITがあると業務の負荷が1/2、1/3になる事例研究があります。
  3. 三つ目は、一番分らないのですが、ITには最終的に人間の価値観も変える要素もあり、その結果として社会全体が色々な側面で、人の生き方をも含めて根本的に変わって行く。その結果、トータルとしてIT化された社会で環境負荷が増えるのか、減るのかが問題になります。現在の結論としてはITの功罪は半ばではないかと思われます。

今回の提言では、以上の関係から環境を意識せずにITが発展して行くと環境負荷を増やす方向にいくことから、環境問題も採り上げました。

一例として、アメリカは、先進国の中で環境に意識が薄い国で有名ですが、この数年、年4〜5%の経済成長率を続けてきたものの、電力総需要はその率では増えていない。単位経済あたりのエネルギー消費が明らかに落ちています。その内の半分はITによる寄与であろうと学会で議論されていますが、アメリカの総エネルギー需要は、やはり増えているので総環境負荷も増えています。一方、専門家によりますと、持続的な発展を保証するには、世界のエネルギー需要を少なくとも1/4、できれば1/10にしなくてはいけない。そこで日本が初めてITを活用して環境調和型のIT社会の実現を目指せば、達成できる可能性があるので、今回学会として検討し、提言を行うこととしました。

記者:エネルギーの総需要は、現在の数値の1/4又は、1/10にする必要があるの か?

▼岸田:
国際的な削減率としてF4(ファクター・フォー)、F10が認知されています。人 類60億が持続的な発展をするには、既にキャパシティを越えています。今後、発展途上国が先進国並みの生活レベルを求めると、資源、エネルギーの消費を1/4、1/10にしないと今世紀中に人類は破局的な状況になります。 経済産業省が提唱している3Rは、単に1回だけ再利用するのでなく最終的に何度も再利用して行くこと、社会のベースを所有から利用へ変えてなるべく共有することを求めています。ハードウェア等を何度も使っていくには、一企業では不可能で、社会全体で情報技術を使って変えていくなどの必要があります。例えば、使用済の製品自身に使用履歴・使用化学物質等の環境情報を付けて、世の中に流通させ、出回る「環境情報」のシステムを社会全体で標準化させるとなると、国家的支援がないと構築できないので、今回の提言を行った訳です。

記者:日本としてはエネルギーの総需要をどれだけ減らせば良いのか?、具体的数字はあるのか?

▼岸田:
国家目標はできていません。今あるのはCOP3の90年比6%減のみです。個人 的意見ですが、当面日本は1/2にするのが国家目標として理想と思っています。

▼原島:
現状を補足しますと、炭酸ガスで申し上げますと、日本では人一人出す炭酸ガス の25倍を自動車、テレビ等で使っています。アメリカでは56倍、世界平均は10倍です。 ITと環境の問題として、ゴミを分別すると資源になります。ゴミに情報を与えると資源になります。情報化社会と環境問題は不可分です。環境を維持して向上させるには、情報という付加価値を与える事が必要です。情報化社会と循環型社会は原理的に一体化した社会と思われます。

以上

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