補足説明
21世紀IT社会の健全な発展に向けて

 我々はIT(情報通信技術)革命の中で新たなる世紀を迎えることとなりました。インターネットを基盤とするITは、情報不均衡の解消、時間や地理的な制約からの開放、個人の嗜好に特化したあらゆる価値観の許容など、情報に関わる様々な制約から個人を解放し、個人の価値観の形成にまで影響を与える極めて大きなポテンシャルをもつ21世紀を特徴付ける技術と考えられます。

 そのような中、我が国においては、本年1月に「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」が施行され、すべての国民が、情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会の実現へ向けてスタートをきったところです。

 電子情報通信学会、情報処理学会、電気学会はITの研究者・専門技術者の集まりであります。我々学会は、基本法に掲げられた高い理念と目標の実現に向けて、IT分野の技術開発に責任を有する専門家集団として、21世紀の始まりにあたり、新たに設置された「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」に対して、IT社会の健全な発展に対する以下の提言をいたします。なお、先にIT戦略会議に対し、情報関連6学会がITの発展と普及のための提言をいたしました。今回は、更に踏み込んだ提言になっています。

1.健全な情報環境の構築へ向けた総合的な危機管理の充実

 高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たっては、情報共有や情報流通の安全性及び信頼性の確保、個人情報の保護などを行うための仕組みとして、技術、法律から人材の育成に至る、総合的な危機管理が必須と思われます。以下では、特に人材の育成と、法整備について提言をいたします。

  1. セキュリティ保全の出来る技術者のシステマティックな育成へ向けて、技術者認定制度の早期確立を要望いたします。

     今後ますます、IT技術者の不足が予想されます。特にセキュリティ保全ができる技術者のシステマティックな育成が不可欠であります。その場合に、質の高い優れた技術者を確保するためには、セキュリティに関する技術者資格が必要になります。その具体的な対応として、大学におけるプログラム内容の国際的同等性を含めた充実と、技術者認定制度の早期確立が必須であると思われます。我々学会は、前者に対応してはJABEEに協力し試行実験を含めて積極的に取組んできました。平成14年度からの本実施に向けて、平成12年度には大学と高専のそれぞれ1校に対して審査の試行実験を実施してきました。今後ともこの活動は継続しますが、加えてご要望に応じ、技術者認定制度の創設の議論・検討に貢献します。

     学会としては、これまで取組んできました学生、社会人向けの技術者継続教育プログラム"先端オープン講座(検討中)"の実施(昭和58年から実施し、既に5000人を越す受講者がいます)、大学教育用の教科書/専門書の発行、などを更に強化することにより、技術者育成に協力していきます。これら以外に、平成8年から継続して来ました小中高校生向けの科学実験教室などの"青少年科学教育プログラム"の継続実施(既に4000人に対して実施)を通じて、小中高校生の科学に対する関心を高め、将来の技術者への底辺拡大に向けて努力をいたします。


  2. IT技術の進展に対応する更なる法整備を要望いたします。

     不正アクセス防止や電子署名に関する法律が成立し、個人情報保護基本法の制定が進められるなど、情報化社会へ向けての法整備が充実しつつあります。しかしながら、技術的な変化の激しいIT分野では、技術の属性に適合した様々な法律の継続的な整備が今後も必要になるものと思われます。その場合に、IT関連の法律策定過程へ学会として積極的に関与したいと考えています。具体的には、パブリックコメント制度へ学会として組織的に対応することとし、そのリエゾンを設置し、存在を内外に明示いたします。

    リエゾン:電子情報通信学会 企画理事
    学会の連絡先:総務課、TEL:03-3433-6691

     我々学会は、セキュリティ技術に関しては昭和63年に"情報セキュリティ研究専門委員会"を設置し、その後活動を継続してきました。その他に、IT社会で必要となるソフトウェア、ヒューマンインタフェース技術の充実に向け、関連の研究専門委員会、国際会議、総合全国大会、ソサイエティ大会などでの研究発表、討論などを通じて一層活発に活動いたします。これに加えて、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部あるいはその関連部門に、ご要望に応じて会員専門家を派遣し、施策の策定等における議論・検討に協力いたします。

2.健全な地球環境の構築へ向けた環境調和型社会の実現

 人類が21世紀を生き抜いていくためには、健全な情報環境の構築とともに、地球規模での環境問題の解決を中心とする健全な生活環境の構築が避けては通れません。環境負荷余裕度の小さい日本は、世界に先駆けて"環境調和型のIT社会の構築"を模索検討し、その道筋を世界に発信することで、21世紀の地球人類へ貢献することを期待されています。世界初の環境調和型高度情報化社会の構築と世界へ向けての情報発信を目指し、IT技術の活用、IT応用技術の育成強化について提言いたします。

  1. 環境調和型社会の実現のために不可欠なIT応用技術の育成強化への国家的な支援を要望いたします。

     循環型社会の実現には、モノを作る場面でのいわゆる動脈物流に加えて、それと対をなす、使用、廃棄、再利用などの場面での静脈物流の効率化が必要であります。

     具体的には、静脈物流ITシステム開発、静脈物流データベース構築などがあげら れます。一機関、一企業では達成が困難なこのような課題への国家的な支援を要望い たします。更に、IT社会の環境負荷低減へ向けて、IT活用により環境負荷の定量 的評価方法の開発が望まれますが、定量的評価方法の産業横断的、あるいは国家レベ ルでの確立へ向けた支援を要望いたします。

     我々学会は、高度情報化と融合した環境調和型社会の構築と、世界へ向けての発信を目指していきます。平成12年度には"ITで環境調和型IT社会を拓く"というシンポジウムを開催するとともに、環境社会の実現や環境ビジネスの展開を意識して平成11年からスタートしているエコデザイン学会連合の構成メンバーとして活動を続けてきました。さらに定着した活動として展開するためにITと環境の議論を中心とする研究専門委員会の設立など、これらの研究分野の活動強化を行っていきます。

3.ITと社会システムの融合へ向けての施策促進

 21世紀高度情報通信社会の健全な発展には、人と環境および経済の調和が必要であり、バーチャルなサイバー社会とリアルな社会システムの節度ある融合が必須と思われます。急速なIT革命が人間社会にもたらす恐れのある多くの難しい社会問題、技術的課題を的確に予測し、これを乗り越えて行かなければなりません。この観点から以下の提言をいたします。

  1. ITを有効にかつ健全に活用した社会システムの実現のためには、理工学・技術系と人文科学・社会科学系の交流促進が必須となります。これを促す施策、支援を要望いたします。

     ITと社会システムの融合に向けては、自然科学と人文科学がそれぞれの領域から踏み出し、科学技術と人文・社会科学が融合した、"情報"を中心とする新たな学問の構築が必要になると予想されます。我々学会は、関連する諸学会との連携、交流を強化することにより、こうした新しい学問分野の開拓に努めるとともに、産官学のダイナミックな"共創と交流の場"の創設などを通じて、21世紀における文化的・倫理的に優れた高度情報化社会の実現に貢献いたします。

     電子情報通信学会では、平成7年に理科系と文科系を融合した"情報文化と倫理研究専門委員会"を設置し、そこでの議論を基に平成10年に倫理綱領を策定しました。この活動を更に有効なものとするために、同研究専門委員会を中心にして学会内外の情報通信関係者、法律専門家、倫理学専門家およびネットワーク管理者などでワーキンググループを形成し、大学・学校を中心にした"ネットワーク運用ガイドライン"の制定およびその公開を行っていきます。

     社会に向けての発信の第1段階として、情報倫理、情報教育、情報文化など理工学系と人文科学・社会科学系の境界領域の問題を議論し、広く社会にこれらの問題の重要性について情報発信していくシンポジウムを平成13年5月9日に経団連会館で開催することを計画しています。

以上

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