技術者教育認定制度シンポジウム、2000年秋
技術者教育認定制度が目指すもの
JABEE副会長 大橋秀雄 |
1.技術者とは |
JABEEが認定の対象とする技術者教育とは、高等教育の学士レベルに対応する技術者育成のための基礎教育を指す。ここでいう技術者Engineerとは、下図に示すように、技術を業とするもののうち、知識(工学)をその能力の中核におくものを指し、スキルを能力の中核とする技能者Technicianを含まない。 |
科学Scienceと技術Technologyは全く別物である。誰でも検証し再現できる知識verifiable knowledgeの体系である科学は、まだ歴史が浅い。事実だけに忠実な近代科学の歴史は300年に満たない。
一方技術は、人類の歴史とともにあった。今日的にいえば、人工物とそれに関わるシステム、それらを創出し、管理するノウハウとスキルの集合を技術と呼べば、それは科学と独立して存在してきた。
上図に示すように、科学の拡大に携わるものが科学者Scientist、技術の伝承・拡大に携わるものがTechnologistである。Technologistに対応する日本語は見当たらない。携わるという表現を、業とするという表現に変えてもよい。業professionを通じて、個人は社会に対する役割を鮮明にする。 技術に関わる業には、そのベースとなる中核能力に応じて広がりがある。高度な科学知識(工学)とその応用を業の核とするものをEngineering、技能skillを核とするものをTechnologyと呼ぶ。前者を担うものが技術者Engineer、後者を担うものが技能者Technicianである。 技術者に必要な学士レベルの基礎教育は、工学部のみならず、理工学部、農学部など、いわゆる理工系(医学部を覗く)学部で広く行われている。技術者の育成を目標とする専門教育プログラムは、組織上の所属を問わず技術者教育と見なされる。 |
2.技術者教育認定の目的 |
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JABEEは、教育プログラムの認定を通じて技術者教育の向上を実現し、その国際同等性の確保を目指すものである。認定の対象はまさしく教育そのものであり、実施の責任は大学等Academiaが担っている。下図の左の輪が、JABEEが対象とする学士レベルの技術者基礎教育を示している。 一方、基礎教育の充実を通じて技術者の能力が高まり、国際的に通用する専門職Professionalsとしての技術者が多く生まれるようになれば、これは技術者個人のチャンスを拡大するのみならず、技術力強化を通じて社会と産業に貢献することになる。またそのような技術者が、プロの証として技術者資格−技術士−を取得するようになれば、技術の社会に対する責任が一層明確な形で担保されるようになる。これが下図の右側の輪で示される技術者キャリアーに関わる部分であり、その活動は主として産業Industriesの中で行われる。また、このようにして技術者の社会的認知が高まり、職業としての魅力が増すと、意欲ある若者が技術者の道を志すようになる。これが教育をプッシュアップする。 JABEEは、教育と技術者キャリアーの二つの輪が車の両輪のように均衡を保って支え合う全体像を描きながら、認定による技術者教育の向上に特化する。 |