電子情報通信学会  
ロゴ


5. 大学の対応

技術者教育プログラムについてJABEEの認定を受けるには、図3に示される教育の質的保証・継続的向上と認定の構図を認識し、自己点検書を作成することが重要である。特に、自己点検書の作成を通して、プログラム提供側での教育改善の項目が明らかになり、それぞれの大学等でなにを改革すべきか、必要な問題意識が生まれてくる。その際、自己点検書作成の手引き(試行用)と「JABEE共通OHP(JABEE基準・審査委員会委員長の大中逸雄氏作成)」が大いに参考となる。特に、大中氏のものには認定のための教育改善を意識づける事項が列挙されている。なお、点検書における評価においては、ABETにならって

  C: 将来基準を満たさなくなる可能性がある(concerned)
  W: ほぼ基準を満たしているが完全ではない(weakness)
  D: 基準を満たしていない(deficiency)

の3段階とすることになった。また、この対応としては



図3 教育の質的保証・継続的向上と認定


  C: 5年後に見直し
  W: 2年後に、訪問または報告で見直し
  D: 1年後に見直し

ただし、Dの場合で、初めての審査の場合はNot Accreditated(略して、NA)とすることになった。この判定を適用するとDがあった場合はNAとなるが、今回の試行では判定の言い方を「再審査」ということにした。なお、これは、次年度もう一度審査するという意味で、年度内にもう一度審査するという意味ではない。試行では、審査チームはプログラム提供側の認定作業を模擬的に行うが、問題点を洗い直すために、プログラム提供側も審査チームのやり方を評価し、レポートを出してもらうことにした。

1999年5月1日付けのデータであるが、我が国の工学系学生数は学部472,262人で、大学院博士課程前期課程54,824人で、大学院博士課程後期課程11,389人である。理工学部への入学者の推移は1994年の124,876人から年毎に微増で1999年で127,483人である。また、学部への志願者総数に占める理工系学生志願者数の割合は1993年で19.5%であったのが年毎に微増で1999年に22.3%である。5年先には、国立大学の独立法人化が既に実施され、また大学に進学を希望する学生総数も数量的には大学の受け入れ人数に近くなり、大学によっては学生数の欠員が深刻な問題となり、経営できないところが発生し、多くの大学が競争的環境の中で個性が輝く大学として生き残りをかける「大学の統廃合の時代」に突入する。その時代の大学の生き残り策のひとつが、工学部や理工学部では、技術者教育から生まれるものと思われる。

また、通常の学生数減への対策として、大学院や大学への留学生や社会人の受け入れ増を検討している大学もあるが、これからは、日本の大学教育を経由して世界に羽ばたくことができる「国際的に相互承認され、質の保証という意味で国際的な整合性を持つ教育(それに基礎を置く、国際的に通用する学位の取得)」を保証し、国際的に通用する資格制度への道筋を明確にしなければ、優秀な留学生も資格修得を目指す優秀な社会人も集められない。その意味では、工学部や理工学部における技術者教育への対応は検討に値する項目である。

日本には、大学の電気、電子、情報通信、情報に関連した学科が200(私立大学115、国公立大学85)ある。その学科のほとんどがJABEE認定の技術者教育プログラムを作ることになれば、その数が学科に対応しないとしても、最大認定期間が5年で、実際には5年認定(Cの場合)と2年認定(Wの場合)が混在するから、認定作業を担当するJABEEと本学会の仕事は膨大なものとなる。また、対応する大学の努力も大変なものとなる。



6. あとがき

 技術レベルの保証としては、日本では企業の責任とする見方が支配的であるのに対し、欧米では個人の有する資格(個人の能力に依存する形の技術者育成が求められ,個人の技術水準を保証する資格制度で保証されている)にあるとしている。今後、JABEEの活動と国際的整合性の浸透で、日本でも、技術レベルの保証が欧米のようになるのも近い。それを早めるのは、JABEE認定を受けたプログラム修了者を優先的に採用することを打ち出すなど、産業界の対応も重要である。専門認定、機関認定、機関評価のいずれをとっても、大学にとっては書類作り等準備が大変である。無用な仕事を作らず、なるべく費用をかけないことを、認定機関や評価機関で調整を図ることが重要である。

 技術者教育プログラムは工学系分野の研究者養成の障害とならない。むしろ、役に立つ技術への目を持った研究者養成にプラスに働くことになろう。JABEEの活動は、大学等からのプログラム認定の審査申請があって初めて可能である。その意味で、今後の大学等での技術者教育への関心がすべてを制する。日本では、学部教育よりも、大学院研究教育を優先してきた教員が、JABEEの活動へどう反応して来るか、今後注目される。また、通学制の大学の授業は現在、大学設置基準で、「学生と教師が同席して行う対面授業」を基本としているが、大学審議会で今秋中にまとめる答申のなかでは、「遠隔授業に関する単位認定の条件を緩和し、ネット授業も認める方向である」とのことである。遠隔授業で得た単位について大学等のプログラム認定申請側で行う単位認定については、JABEEとしては「遠隔授業での単位取得レベルがプログラム認定申請側の基準レベル以上かどうかをプログラム認定申請側で判断し、その妥当性を審査員に説明できなければならない」という意味で対応することになっている。しかし、世界の一流の講義がネットを通して自由に受けられるようになり、教育のグローバル化が浸透しつつあるなか、技術者教育についての新たなる対応が大学としても、JABEEとしても、学協会としても今後求められるかもしれない。



最後に、2000年7月29日の研修会で配布された資料「ABETのThe Accreditation Process」(文献4)の表紙にある Mark Twainの言葉をここに記しておく。


Good judgment comes from experience.
And where does experience come from?
Experience comes from bad judgment.

謝辞 JABEEの活動に対して、ボランティア的貢献をする機会を共有させていただいている本学会JABEE対応委員会の秋山 稔委員長、田中良明、牧野光則両幹事ならびに委員の方々に、さらにJABEE基準・審査委員会の大中逸雄委員長ならびに委員の方々に、感謝申し上げる次第である。また、JABEEの関連の仕事で多大なサポートをしていただいている本学会事務局長の家田信明氏に感謝申し上げる次第である。



■文献

1) 工学教育の外部認証制度(アクレディテーション)の導入促進に関する調査報告書、産業基盤整備基金、平成11年3月。

2) 技術者教育におけるアクレディテーションシステムに関する調査報告書(文部省委嘱調査)、(社)日本工学教育協会、平成12月3日。

3) Trudy E. Bell, "Proven skills: the new yardstick for schools," IEEE Spectrum, vol.37, no.9, pp.63-67, Sept. 2000.

4) The Accreditation Process, ABET, July 29, 2000。

                           (2000年10月5日)

付録1: 大学設置基準 第四章「教員の資格」の内容

(教授の資格)

第14条 教授となることのできる者は、次の各号の一に該当し、教育研究上の能力があると認められる者とする。

1 博士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、研究上の業績を有する者

2 研究上の業績が前項の者に準じると認められる者  

3 大学において教授の経歴のある者  

4 大学において助教授の経歴があり、教育研究上の業績があると認められる者  

5 芸術、体育等については、特殊の技能に秀で、教育の経歴のある者  

6 専攻分野について、特に優れた知識及び経験を有する者


(助教授の資格)

第15条 助教授となることのできる者は、次の各号の一に該当し、教育研究上の能力があると認められる者とする。

1 前条に規定される教授となることができる者  

2 大学において助教授又は専任の講師の経歴のある者  

3 大学において3年以上助手又はこれに準じる職員としての経歴がある者  

4 修士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有し、研究上の業績を有する者  

5 研究所、試験所、調査所等に5年以上在職し、研究上の業績があると認められる者  

6 専攻分野について、優れた知識及び経験を有する者


(講師の資格)

第16条 講師となることのできる者は、次の各号の一に該当する者とする。  

1 第14条又は前条に規定する教授又は助教授となることのできる者  

2 その他特殊な専攻分野について教育上の能力があると認められる者


(助手の資格)

第17条 助手となることのできる者は、次の各号の一に該当する者とする。  

1 学士の学位(外国において授与されたこれに相当する学位を含む。)を有する者  

2 前条の者に準じる能力があると認められる者


(大学院を担当する教員の資格は別の大学院設置基準に定められている。産業界等から大学の電気・電子・情報通信工学や情報工学関係の学科に教授として移る場合は、大学院での研究指導や授業を担当する必要があるかによるが、研究業績等に関する要件に注意。)

   
                                  


付録2: JABEE対応委員会の構成

委員長: 秋山 稔(芝工大)
副委員長: 篠田庄司(中大)
幹事: 田中良明(早大)
  牧野光則(中大)
委員: 荒川 薫(明大)
  石井六哉(横国大)
  小平邦夫(神奈川工大)
  後藤 敏(NEC)
  笹瀬 巌(慶大)
  庄子習一(早大)
  鈴木滋彦(NTT)
  中嶋正之(東工大)
  鳳紘一郎(東大)
  三木哲也(電通大)
  持田侑宏(富士通研)
顧問: 当麻喜弘(電機大)
事務局長: 家田信明(本学会)

 付録3)Program Criteria for Electrical, Computer, and Similarly Named Engineering Programs (Submitted by The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)

  These program criteria apply to engineering programs which include electrical, electronic, computer, or similar modifiers in their titles.


1. Curriculum

The structure of the program must provide both breadth and depth across the range of engineering topics implied by the title of the program.

The program must demonstrate that graduates have: knowledge of probability and statistics, including applications appropriate to the program name and objectives; and knowledge of mathematics through differential and integral calculus, basic sciences, computer science, and engineering sciences necessary to analyze and design complex electrical and electronic devices, software, and systems containing hardware and software components, as appropriate to program objectives.

Programs containing the modifier "electrical" in the title must also demonstrate that graduates have a knowledge of advanced mathematics, typically including differential equations, linear algebra, complex variables, and discrete mathematics. Programs containing the modifier "computer" in the title must also demonstrate that graduates have a knowledge of discrete mathematics.





| TOP | BACK |

(C) Copyright 2000 IEICE.All rights reserved.