Top page > 各種学会活動 > JABEE > JABEEがISO9001から学ぶべき事項と企業へのお願い

 
JABEEがISO9001から学ぶべき事項と企業へのお願い
家田信明
まえがき

JABEEはISO9001の教育版そのものであると言って過言ではない。ISO9001は品質保証された製品(ハード、ソフト、その組合せ、等非常に幅が広い)を顧客に提供するシステムであり、認証はそのシステムが要求される条件を満たしていることを保証するものである。これに対してJABEEは学生をプロダクトという観点で対応させてみると、国際的に通用する(品質保証された)学生を生み出す教育システムといえる。特に、ABETがEC2000でアウトカムベースに移行した段階で、ISO9001 とJABEEの類似点はより明確になった。

日本においては、JABEEはスタート台に立った段階であるのに対して、ISO9001は既に多くの企業がシステムとして取り入れ運用しており、運用において大きな時間差がある。従って、ISO9001で培われた方法や、実施されている有用な方法は積極的に活用するべきである。電子情報通信学会はこの考えの下に、JABEEへの取組みを進めている。

ISO9001とJABEEの比較

ISO9001のアウトラインを説明し、続いてISO9001で実施されている中から、JABEEが有効活用すべきであると思われる事柄を箇条書きで示す。

1) ISO9001のアウトライン

ISO9000は品質保証の国際規格体系の総称である。その中でISO9001は設計、開発、製造の全体、あるいは組合せの全ての事業形態において製品の保証をするためのシステムとして必要とされる要求事項からなっている。

製品とは事業が対象として定義するものだが、対象となりうるものは非常に広く、産業界において販売対象となるすべてのものが対象となる。

ISO9001における要求事項は20の大項目からなっている。大項目の下はさらに中項目、小項目に細分化されている。内容は、経営者の責任に始まり、品質システム、設計、購買、工程管理、検査・試験、内部品質監査、教育・訓練と多岐に亘っている。
2) 大きくとらえた場合のISO9001とJABEEのシステムとしての共通点は次の4点である。

(1) 審査はより良いシステムを作るためのものであること
(2) 審査はあくまでもシステムに従って運用されているかのチェックに徹すること
(3) チェックは要求事項が満たされているかのみのチェックであること
(4) 定期的チェックでスパイラルアップを目指していること

監査に合格する重要な要件として、ISO9001の観点から言えば

(1) まず、経営者が本気になることと、
(2) 全員のベクトルが合うこと、

があげられる。
3) 経営者に対してはISO9001では、次の4点が求められている。

(1) 品質方針の策定、周知
(2) 具体的な目標設定(数値重視)
(3) 要員配置、設備環境の整備
(4) システムの毎年の見直し:スパイラルアップ(常に成長)

JABEEにおいては、教育目標がISO9001の(1)に対応し、(2)から(4)はそのまま対応すると考えてよい。
4) 品質システム

ISO9001では各事業体の憲法である品質マニュアルを制定する。ISO9001の全ての要求条件を満たすように自分の守るルールを作る。さらに細分化した業務に対しては手順書を作る。これらは実際の活動の中で100%守られて行動されるものでなければならず、監査の段階で徹底的にチェックされる。

ISO9001では製品対応で品質計画書を作成する。ここでは、製造計画、要員配置、収支計画が盛り込まれる。JABEEで対応するものとしてはカリキュラム、シラバス等が該当するが、書いたものは確実に守られなければならないことは全く同じである。
5) 検査・試験

検査・試験は各工程毎に行われるが、ISO9001ではあくまでも仕様を適確に評価しているかという観点でチェックされる。JABEE対応では入学試験、期末・期中試験,卒論等があるが、同じように高等教育機関がかかげている目標を適確に評価しているかという観点でのチェックとなる。
6) 文書管理

ISO9001では規程やルール、指示といった文書の管理が厳しくチェックされる。これは古いバージョンの規程等で作業されることによる不具合の発生を排除するものであり、事業では極めて重要なことである。

JABEEにおいては、JABEE本体が管理するものと、高等教育機関が管理するものがあるがいずれも間違いなく最新のバージョンが使われるシステムになっていなければならない。今ではインターネットを活用した方法を有効に使うことでこの問題は容易に解決できよう。
7) 不具合に対する対応

ISO9001では不具合への対応に非常に力を入れている。JABEEがISO9001から学ぶべき最大の事項はこの項目と考える。

ISO9001における対応は(1)応急処置、(2)恒久処置、(3)予防処置、からなっており、これにより、失敗が単なる失敗で終わらず、逆に財産にすることができるようにしている。

失敗の公開は、日本ではそういう習慣が少ないことから最初は困難であるが、その有効性が理解できると自然に取組むことができ、結果として大きな効果を挙げることができる。JABEEにおいても是非有効に活用したいものである。
8) 検査・試験装置

ISO9001では検査・試験装置の管理が品質保証の観点から厳しくチェックされる。
JABEEとしては教育の効果のチェックがいろいろな方法でなされるが、この結果を活用できるようにするためには、ISO9001で行われているように、(1)第三者を入れた客観的な評価、と(2)結果が目で見えるような定量的な形で出せる工夫、の2点が必要であろう。
9) 内部監査

最後に内部監査について述べる。ISO9001では取得後も、毎年または半年毎にサーベイランスという簡略版第三者監査が義務付けられており、さらに3年毎に監査機関による本格的な監査を受ける。各事業体は第三者機関による監査の前に自主的に内部監査を実施する。

目的は、監査への対応もあるが、(1)システムの不備を補完、(2)組織改正への対応、(3)慣れによる不具合発生の防止、等定常的なチェックを行うことにあろう。

JABEEにおいてもPDCAの一環として採り入れると有効である。とくに経営者が目標を毎年見直し具体的に数値目標として活用できるような体制とすることが望ましい
(Plan −> Do −> Check −> Action)
10) 最初の受審に対する取組み

もう一つの内部監査として、ISO9001に取組む最初の段階で各企業が進めているものがある。

ISO9001を取得しようと決心した段階において、まず、(1) 社内で審査員の養成をし、(2) その審査員を核として自主監査チームを社内に作り、(3)続いて、自主監査の実施・改善を完成度が高まるまで繰り返す。これで然るべき結果が得られた段階で、正式に審査請求を審査機関に出す。

JABEEは認定機関であり、教育機関ではない。これまではJABEEそのものの立ち上げ期間であったので、試行校と協力してシステムそのものを作ってきた。試行実験は、基本的には平成13年度で試行は終わると考えるべきである。従って、今後各高等教育機関は自校の中で審査員の資格を持つ人材を育成し、ISOのように自主内部審査を行ってレベル向上を図り、適切な段階に到達したところでJABEEに審査請求をするのが流れとなろう。このためには、JABEEならびに各学協会は高等教育機関と連携を保ちつつ審査員の養成に積極的に対応しなければならない。H13年度にJABEEで学協会が実施する自主研修会が公式研修会とみなされるための条件が明示された。電子情報通信学会はこれを受けて、H13年度内に2回の自主研修会を実施し、すでに240名の研修会修了者を養成した。
おわりに

JJABEEはこれまで説明してきたように大学教育のISO9001版と言って過言でない。JABEEが導入されることにより、大学教育が国際的に通用するものとなり、さらに、スパイラルアップにより常に進歩する仕組みが出来あがることになる。この企画を成功させるためには、高等教育機関の努力、学会の体制作り、企業の協力が欠かせない。企業側にはプロダクトとしての学生の受け入れ先として、大学からの要請に対する協力、学会からの審査員派遣の要請にご理解をお願いしたい。

特に、企業側は、学生を受け入れるという受動的な姿勢にとどまらず、JABEEの活動が一刻も早く立ち上がり、産業界に有用な人材を送り込めるようにすべくISO9001を経験した立場から積極的な姿勢で臨んで頂きたい。

ページTOPへ