The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


競争と調和

東北支部長 根元義章

 時折,学会支部の果たすべき役割は何であるかの議論がある.いうまでもなく地域に密着したコミュニティを構成し,支部ならではの活動を行うことにより,支部会員の相互の理解,連携を図り,支部らしさを発揮することが役割である.もとより学会はグローバルな視点で活動を行うことが極めて重要で,本会もその方向に沿い活動が実施され成果を上げている.学会支部はグローバルを志向する中でのローカルであろうが,両者は相反するものでなく調和よく両立させることが,学会を堅固なものにする意味からも重要である.ただし,ローカルに位置付けられるものは,その特徴が十分に認識され,支持され,そして時代に即し成長していくことが必要である.

 このことは多くの場面に当てはまる.インターネットの普及によりグローバル化は加速され,社会システムに大きな変革を与えている中で,組織,個人はどのように対処すべきかが熱く議論されているからである.グローバル化の時代,生き残るためには競争力の確保が必須であり,それをいかに実現するかが課題であるといわれる.このとき危惧されることは,グローバル化の時代ゆえに,ややもすると画一的な判断,評価がなされやすく,またすべてが同じ領域の同じ目標に向かうことである.科学技術は目を見張る発展を遂げ,人類の発展に多大なる貢献を果たしていると同時に,資源,エネルギー,自然環境など,昔は限りがないと安心しきっていたものにも限りがあることをも実感させた.このような状況で,画一的な判断,評価のもと全員が同じ目標に向かう競争は,破綻をきたす.限られた資源の過酷な奪い合い,体力の消耗などにつながり,次代に継承すべきものを欠落させ,全体の発展を阻害することに結び付くことが危惧されるのである.

 競争力を得ることは,当然のこととして,他と比べて優位性を有する一種の差別化を図ることであるから,ほかにはない特徴,独自性を保持していることが基本である.地域,組織,個人には,独自の特徴があり,これに基づいた全体の中での果たすべき役割がある.そして,これら独自性,特徴を磨き上げることが競争力向上の基盤になる.

 これからは「すべてが決して無尽蔵ではない」ことを念頭に置き,世界の60億を超すといわれる多くの人々が幸福に暮らせる方策を見いだしていくことが大きな課題である.競争は,目標設定,進め方,評価などに,人間社会の持つ多様性を十分に配慮する,いわゆる高度な調和を踏まえた競争へと変換されるべきであると考える.

 競争と調和はかけ離れているようであるが,今,その両立性が求められている.生態系の共生などは,巧みな仕掛けで限られた資源あるいは環境を巧みにシェアし,種の保存を図っている高度な調和の例ではないだろうか.調和のとれた競争は,容易なことではないと考えるが,現在の人類の抱える多くの課題に対する解決を与えてくれるような気がする.

 身近なところから多様な価値観を認識し,調和を考慮した行動をとることが望まれる.学会は,多様な専門分野の人々の集まりである.意見交換,情報交換を通して,相互の理解が得られる場でもあり,調和のとれた競争により,お互いが成長し,結果として全体の発展に大きく貢献できると考える.この意味からも支部の役割の重要性を再認識させられる.


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