The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


子供の理数離れと学会

会計理事 津田俊隆

 日本における子供の理数離れと学力低下が指摘され始めて久しい.国の工業化が成熟してくると見られる現象のようではあるが,ここしばらくは最先端工業技術力を経済の核に据えて運営されるであろう我が国にとっては,基盤を揺るがしかねない大きな問題だと思う.国としても理数特別コースの設立等対策をとり始めたが,先端技術を引っ張っていく役割を持つ本学会においても早くからこの問題を危惧し,幾つかの活動を展開してきている.例えば,会員の皆さんの寄付とボランティア活動による支援を基盤として運営している子供の科学教室は,見学会を含めて年20回に上る開催実績があり,参加者には大変好評のようである.また他学会とも協賛して進めている子供のためのコンテンツ作りも次第に充実しており,本学会のホームページで現在4通りのトピックスが準備できている.

 このように,子供の自然科学に対する興味の喚起にいろいろな施策が施されてはいるが,日本の子供の理数離れ傾向は相変らずのようである.科学技術系学会の会員数漸減傾向が相変らず続いているのも,若年人口減の影響もあるが理数離れ傾向も大きな要因になっているように思う.昔に比べて,身の回りに面白い物があふれている現在,自然現象に興味を持つ以前に面白さを強調した人工の遊びにいってしまうのもやむを得ない面もあるが,根本原因の一つとして,我が国における工業に対する見方,ひいては技術者に対する見方が変ってきていることがあるような気がする.

 ある国,領域,組織の活力は雰囲気に現れるものであり,若者も敏感に感じとるものである.発展途上にある国を訪れると空港に降りたとたんに熱気を感じ,反対に経済が沈滞した国では寂しさを感じた,あるいは同じ職場でも黒字になると目が輝いてくるといった経験は多くの方がお持ちだと思う.我が国の過去10年の経済停滞,IT・通信バブル崩壊は,本学会が関連する業界の雰囲気を曇りがちにし,その雰囲気を若者自身や子供の親が敏感に感じとった結果,社会的に工学の魅力が低下し親も子供の進路として工学系を視野に入れなくなり,それが子供の理数離れを加速している大きな要因になっているのではないだろうか.

 学会は,我々が関連する業界の雰囲気を変える先導役になれるはずである.そのためには,現状の活動の変革や思い切った新しい試みを展開する必要がある.必然的に学会としての投資も必要になるが,幸い本学会は財政的に苦しくなってきているとはいうものの,いまだ未来に向かって投入する原資は保有している.学生会員活動の活性化,アジア諸国を中心とした会員のグローバル化,知的財産である論文の電子化及びオンライン利用化,各種ソサイエティ活性化活動等に基金を設けて活発な取組みを進めており,効果が出始めたものもある.これらの活動は活性化という面では効果があり,非常に歓迎すべき活動であることはいうまでもないが,その原資は過去の蓄積を投入しているものであり,今のままでは本学会の財政を維持できないのも事実である.したがって,新しい施策を実施するにあたって,将来に向けた学会としてのビジネスモデルの観点を取り入れる必要がある.学会として健全な財政基盤を確立し,新しい施策を積極的に推進できるモデルを作ることができれば,本学会の活力増強を起点として業界の雰囲気を活性化し,ひいては若者の工学への興味を再構築できるのではないかと期待している.


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