The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


評 価 力

副会長 三木哲也

 社会活動のあらゆる場面に「評価」はつきまとうが,学会活動において「評価」は特に重要な要素であると感じる.学会の役割を突き詰めてゆくと,結局は「評価」にたどり着くものが多いからである.学会の存在価値として,論文誌発行に伴う論文査読のように,評価機能を提供していることは直接的な価値であるが,学会のお墨付き(質の保証)による各種の表彰,専門書の出版,国際会議の開催,などは学会の総合的な評価力に負う集団的な価値であり,また長年の蓄積によって築いたステータス(外部の評価結果)が存在価値となっている場合もある.したがって,学会の存在意義や今後の学会のあり方を考えるときに,会員個々として,また組織としての評価力や評価に対する認識が極めて重要であると考える.

 本学会の会員の多くが携わっている研究開発や教育の分野において,もとより評価は切っても切れないものであり,研究開発のリソース配分や人材の育成において,適切な評価こそが要であることはよく認識されている.一方,近ごろは社会全般に競争原理が浸透してきたことから,その裏腹として至る所で評価が問題となっている.軌を一にして国立大学の法人化もスタートし,大学の研究力や教育力が評価の矢面に立たされている.また,科学技術基本法によって投入されている膨大な研究費の効果も問われており,そのための評価に厳正化が求められている.これらの結果,このところ数多くの評価委員会や評価のための組織が活動しており,評価を受ける側もその準備や自己点検に追われ,社会全体の評価に費やしている時間は,以前とは比較にならないほど増しているのではないかと思われる.

 評価のためのリソースがバカにならないとすると,評価の方法論や効果についても関心が高まらざるを得ない.評価者の評価とか,評価方法の評価などという話題も出てくるわけである.入学と卒業に代表される入口評価と出口評価の適正化は長年の問題である.また,日本人の特質かもしれないが,定量化しにくいものの評価が不得意であることから,評価が数値化しやすいものに引っ張られてしまう問題点も指摘されている.大学教員の研究業績と教育業績の評価は,その典型的な例であろう.更に,これも日本人の特質かもしれないが,相対評価に比べて絶対評価が不得意という問題もある.自律した価値観や,文化的価値観をしっかり持ち得なくとも生きてゆける国であることに遠因があると思っているのであるが,そうだとするとそれにまつわる問題を克服するには,教育にまでさかのぼり大きな努力と時間を必要とする.大学,企業,更に行政も国際化する社会でどう生き延びてゆくかを模索する時代に入り,適切な評価を行うための方法論と,そのための教育のあり方について真剣な議論が必要である.

 幸い本学会は,国際化する環境において国際的な学会としての認知度を上げ,その評価を高めてきている.これは,英文論文誌の成功によるところが大きい.国際的に認知される英文論文誌を目指した,多くの諸先輩,関係諸氏の長年の努力のたまものである.丁寧な論文査読を通して適切な評価力を発揮してきた努力が大きな要因である.これらの実績の上に今後は更にJABEE(日本技術者教育認定機構)の試みのように国際標準に見合う評価方法の追求や,会員の評価力の向上,あるいは学会の評価力を活用する新たな活動など,「評価力」を重要な基軸ととらえて学会を発展させてゆきたい.


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