The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


産・官・学の再生

副会長 富永 英義

 この15年間の日本の国際競争力の著しいちょう落を深刻に受け止めるようになったのはこの数年のことである.

 1990年代前半のクリントン政権によるNII(National Information Infrastructure)構想は米国のインフラ整備をうたった国内政策であった.1990年代後半になり,地球的規模の米国主導の情報システムのGII(Global Information Infrastructure)構想に切り換えてきた.代表的な例は,1996年のInternet2構想は米国の主要大学を結ぶ構想であったが,今日まで着実に実績を上げ全米80を超える大学を結び,ヨーロッパ諸国,アジア諸国もその傘の下に入ってきている.我が国の対応は一部の担当者の努力にゆだねられてきているが,速度が不足している.

 シンクタンクによる最近の国際競争力の比較のデータは,大学教育,産学連携,通信インフラの評価に強い相関がある.我が国の評価順位は49か国中最下位またはそれに近い報告になっている.特にグローバル競争時代への対応の遅れが深刻な状況にある.国立研究機関とともに国立大学の独立法人化は研究・教育の活性化を指向したものではあるが,民間研究機関や私立大学との差別化を維持した官尊民卑の潜在的思考を残したままの施策になると,国際的なスタンダードによる評価に堪えられるものにはならない.

 我が国の諸制度や慣習は固有の文化や民族の特徴に根差すものはその独自性を維持すべきであるが,地球的規模での協調と競争を意識したとき,欧米とアジアに共通な基盤と土俵の構築が求められる.そのためには,官主導の施策を民間が待望したり官が民間を支配することで安定感を持つ国民性からの脱却が必要である.

 国際社会における協調と競争に対処するために,国が何をなすべきか,産業界と大学との連携はどうあるべきか,を考えその答えを見つけることで,産・官・学の再生の道しるべを知ることになる.

 このことは本学会の置かれている現状認識にも深い関係にある.特に,学会活動の多様化と国際化は,大学,研究機関,産業界,を連携のきずなになるための,新たな視点が必要となる.


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