The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


これからの学会

会計理事 村岡洋一

 御多分にもれず本学会でも,会員獲得が常に話題にのぼる.財政的健全性の維持には,ある程度の会員数を確保することが必要ということであろう.それで,学会に特に入りたくもない人を勧誘するためのきまり文句が,「会誌の読みやすさ向上」となる.本当にこれでよいのであろうか.ここではこの問題を取り上げてみたい(何せ,スペースが限られているので,無作法の点はあらかじめお許しを願う).

  (1) なぜ,会員増を目指すのか.仮に,それが学会財政の健全的状態の維持にあるとしよう.学会の主たる活動である研究発表(論文誌,研究会など)に参加するいわゆるアクティブ会員は,全会員の約10%内外であろう.このアクティブ会員の活動を支えるために,会員増をするのだろうか?

  (2) そうだとすればこれは新手の社会貢献の強制にほかならない.もし,アクティブ会員が研究成果の発表をすることにより知的喜びを高めるのであれば,それは受益者負担で行うべきであろう.また,それにより日本または世界としての技術革新の芽を育成するとすれば,その振興を会員に頼るのがいいのだろうか.それこそ,企業からもっと賛助金を出してもらう道を開く方が筋かもしれない.賛助金が出ないとすれば,それはそれだけの寄与を期待されていないことの実証ではなかろうか.

  (3) 繰り返し,国としてまたは世界として,技術者・研究者が成果の交流をする場があることが,技術革新または研究発展への寄与に不可欠だと認識するならば,その場を維持するために,いわゆる一般会員に頼り続けるのが妥当なのだろうか.

  (4) もちろん,そのような場の運営を国または特定の企業に頼ると,独立性が損なわれ,不偏不党の位置を保てなくなる恐れが出るという懸念もあろう.

  (5) であるから,いやしくも「技術者」であるならば,多少の社会貢献の意味も含め,また自分のたゆまない技術力向上も目指し,学会会員になるべしということになるのであろう.しかし,税金でも多少の見返りがある.ましてや,技術情報の入手となると,情報のあふれているこの世界で,一学会が出版する会誌のみでは,太刀打ちなど所せん無理としか思えない.ということで,話は堂々巡りを始める.

 ここで発想を転換して,アクティブ会員(及びその周辺会員)からの会費を増やして,先の受益者負担に近づけたらどうだろうか.もちろん,その見返りが必要である.それでは見返りは?成果発表の場となると,IEEEをはじめとする国際的機関には一歩譲らざるを得ない.ということで,むしろ学会は以下のようにローカル色を出したらどうか.

 (1) IETFに範を求めるまでもなく,ますます研究者・技術者の活動としては,デファクトスタンダードの制定などのように実学的成果を上げなければならない.現在これらの活動は,各個人が手弁当で行っているが,その事務的作業の提供を学会が行い,世界的環境で研究者・技術者が,企業を越えて実学的成果を上げられるような支援体制作りを,学会がしたらどうか.

 (2) Accreditationは大学の評価とたかをくくっている間に,社会では技術者個人の評価が速やかに進んでいる.日本工学アカデミーの研究会が進めている「ITアーキテクト育成」の結論は,どうやらアメリカ式競争・流動化社会の導入になりそうだ.独創的人材育成には,それも一案であろう.また,博士輩出などのためには,IT技術者への給与の大幅な改善なども,常に話題に上る.では,そのような社会の構築過程において,だれが技術者・研究者を守ってくれるのであろうか.だれが技術者・研究者のための論陣を張ってくれるのであろうか.幸い,Accreditationでは各学会がその基準作りに手を貸している.次のステップとして,もっと具体的に我々の地位向上に寄与する学会になれないか.


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