The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


情報交流の場

監事 三木 哲也

 情報化社会の特徴の一つは,「価値ある情報を発信するところに,価値ある情報が集まる」ことだといわれている.これはまさに学会のことを語る言葉そのものである.いずれの学会でも学会誌・論文誌の発行,研究会・大会・シンポジウムなどの開催をその活動の中心に据えているが,専門とする分野において内容豊富でレベルの高い情報交流の場を提供することがその学会の第一義的な存在価値だからである.その昔から,学会は情報化社会の基本的な機能を先取りしていたといえよう.このような価値が学会に加入する主たる動機であり,多くのアクティブな学会員が集まれば更に学会の付加価値が高まって,本学会も現在の姿に発展してきたのである.

 世はまさに高度情報化社会,コンピュータやネットワークの進歩によってその恩恵が社会のすみずみにまで浸透しようとしている.このような時代を迎えて,学会の存在価値にもいろいろなところで影響が出ていると思われる.最も大きい影響は,研究開発の情報が学会以外のチャネルからも比較的容易に入手できるようになってきたことだろう.専門領域の研究開発動向や技術解説を扱う出版物は,以前から学会の出版物と一部で競合関係になっていたが,最近は種類も増えまたカバーする分野も多岐になっている.更にプレゼンテーションによるものも,大きな展示会ではセミナーやシンポジウムを併設するのが当り前となり,内容やレベルにおいて本学会の同種の企画と競合している場合がある.更に加えて,その時々の研究開発にかかわる商業的なセミナーも数多く開催されている.これらによって,従来の学会が提供していた情報交流の一部の価値が奪われていることは間違いないと思われる.

 ところで,学会が情報交流の場として発展してきた主な要素は何であろうか.まず,何といっても学会員が産み出す貴重な一次情報(論文や発表)の交流が行われることである.次に,多様な知識や経験に基づくレベルの高い見識ある議論ができることである.また,所属や利害にとらわれない会員としての率直な意見交換ができることも挙げられる.これからの情報化社会の環境下で,このような「学会ならでは」の情報交流の強みを一層発揮させて,上に述べたような奪われる価値を補って余りある付加価値をつけてゆくことが全会員の願いであろう.

 このことを含めて本学会は,今後の学会運営について多面的に戦略を検討し新たな施策を進めているが,中でも重要な施策はインターネットのより高度な活用法であると考える.昨年,本学会のWebページは一新し,以前に比べれば各段に良くなった.最近アクセスしていない会員は是非ともすぐにアクセスしてみることをお勧めしたい(http://www.ieice.org).これで,学会活動に関する情報伝達の役割は十分果たすようになったと思うが,これからはWebページが「情報交流の場」として最大限に活用されるようにすることが強く望まれよう.信頼できる一次情報に基づくレベルの高い議論がネットワーク上で日々行われる環境を作ることは,学会が情報交流の場として新たな付加価値をつけることになるものと信ずる.例えば,研究会や大会での発表に対して,それに引続くインターネット上での議論が発展し,議論への参加者の拡大と議論の深さが増すことが望まれる.

 情報通信を中心的な専門領域とする本学会は,学会活動へのネットワークの利用法についても常に最先端の試みを行い,情報を発信することでますます価値ある情報が集まる学会になることが期待される.


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