The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


学会と顧客指向

企画・調査理事 小林功郎

 IT (情報技術)革命の合唱の中で,20世紀が幕を閉じ,21世紀を迎えようとしている.インターネットを中心とする情報技術は,青木会長の本学会会長就任演説の中でも指摘されているように,情報流通のバリヤを大幅に低くすることにより,個人を様々な制約から解放し,個人の価値観の形成にまで影響を与える大きな力を持つ.すなわち,情報技術の発展により,情報不均衡や,時空間制約及び共通価値観重視からの開放などにより,個人が伸び伸びと個性を発揮し,活躍できる社会の出現が期待される.本学会は,電子・情報・通信を名前に持つことから明らかなように,情報技術にかかわりを持つ人々の集まりである.まさに,これからの21世紀の“学会”足り得るポジションにいると思われる.本学会をめぐる環境にはまぎれもなく追い風が吹いている.このような状況の中で,ここ数年来の本学会会員数の飽和現象を考えてみたい.会員数の右肩上がりの増大だけが学会の価値を表すものではないことはいうまでもないが,伸びる産業・技術領域にある本学会の会員数が伸びていかない現象については,もっともっと議論をし,原因をさぐる必要があろう.

 社会における本学会の重要性が薄れたわけではないことは既に述べたとおりである.では,会員でいる,あるいは会員になることの魅力が薄れたのであろうか? 学会の動きが世の中の速度,スピードについていけてないのだろうか? IEEEをはじめ,国内外に様々な学会があり,選択の幅が大いに広がった結果だろうか? 性急に結論を出せる問題ではないと思われるが,あえて企業的なセンスで課題を取り上げるとして,顧客志向の徹底を挙げたい.これは,学会が顧客の心をつかみきれていない,つまり会員あるいは会員になろうとする人の心をつかみきれていないのではないかという疑問にいきつく.企業の場合と異なるのは,サービスを提供する側と受け取る側がほとんど重なっていることである.この重なりこそが学会活動の基本である.単に情報を一方的に受け取るだけでは,速度,検索容易,広がりなどの点で,インターネットなどの他の手段に負けるかもしれない.学会に入らなくても不便はないという人が増えるかもしれない.その一方で例えば,総合大会,ソサイエティ大会,研究会などでの研究発表や議論は,最前線の研究開発情報に接することができるというだけでなく,若手の研究者にとって,大変どきどきする貴重な経験になる.そこでの様々な経験や交流が,研究者として育っていく大きな力となる.このような双方向の交流の強化が,学会の魅力を増す一つの方向ではないかと思うのは単純すぎるかもしれないが?

 技術が個人の生活に与える影響力が大きくなっているだけに,技術をよく理解し,技術の持つ可能性,危険性によりよく接近できる立場にいる集団としての電子情報通信学会の果たすべき役割はますます大きくなる.ソサイエティ制への移行を皮切りに,フェロー制度の創設,会員増強や活動活性化の試みが活発になされ始めている.来年度にはソサイエティ活性化資金も作られる.様々なアイデアに学会の資金が投入され,新しい活力が生み出されることが期待される.ボランティア活動としての学会活動の限界,制約はあるが,活性化には会員の斬新なアイデアの発掘と速やかな実行が不可欠である.既に一部実行されている他学会との連携なども視野に入れながら,21世紀の新たな学会を目指していきたい.


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