The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


非常識の常識化

編集理事 佐野浩一

 「国民不在の政治」とか「がんじがらめの規制」といった従来型の常識はもともと非常識と思うのでこれらがなくなることは大いに歓迎するのですが,最近日常生活の様々な場面で「今までの常識が通用しなくなってきているなあ.」と感じることはありませんか.

 いつもの通勤・通学の行き帰りを思い出してみましょう.電車通勤の方は,次のような場面に遭遇しませんか.(1)終日全面禁煙にもかかわらずホームでタバコを吸う人が必ずいます.(2)ドア付近から動こうとしない中高校生によく悩まされます.(3)車内放送で携帯電話の使用はお控え下さいと言っているそばから使っている人がいます.

 バス通勤の方は,次のようなことを経験したことがありませんか.混んできても奥に詰めようとしない若いサラリーマンがいます.また,昔の運転手さんは「奥へお詰め願います.」とよく言っていたものですが,最近は「階段には立たないで下さい.」と言うだけ.

 車通勤の方は,次のような場面に出会ったことがあるでしょう.(1)信号が黄色から赤に変っても突っ込んでくる車が増えている.(2)交差点付近にどうどうと駐車している車が多い.

 その他の日常の場面では,(1)あちこちの階段に座り込んで動こうとしない中高生.(2)制服姿でも人通りの多いところでどうどうとタバコを吸う高校生.(3)話題になった犯罪をまねる人が後をたたない.

 こうなってしまった原因は一体どこにあるのでしょうか.それを直すにはどうしたらよいのでしょうか.以下は私の考える解決策です.最初に述べる解決策は対症療法的なものですが即効力があります.(反対される方も多いことかと思いますが)いわゆる「交番のおまわりさん」を増やし安心できる街にすることです.人間は元来誘惑に弱い動物ですから,また他人には無関心の昨今の社会ですから,注意してくれるおまわりさんがいなければどうどうとルール違反を犯してしまいがちです.最近,日常生活の場面で出会うおまわりさんが少ないと思いませんか.交番を覗いたっていつも不在です.あの混雑する新宿駅前でも横浜駅前でも歩く人の数に比べたらおまわりさんはいないに等しいです.何かあったら一体どうするんでしょうねと不安になります.予防保全ということは非常に大事なことだと思います.次に述べる解決策は時間はかかりますが根本的な方法です.その一つ目は,(言い古されていますが)小中学校では1学級30人以下の少人数教育にして,各人の個性に合わせてみっちり指導することです.これによって,人との付き合い方の大切さ,恥の精神,倫理精神も養われます.会社でもそうですが,基礎教育をおろそかにすると後で絶対そのつけを支払わされます.根本的解決方法の二つ目は,工業や農業での生産労働の大切さを,つまり「物理実体を生産することがなんだかんだ言ったって社会の根幹なんだ.」ということを小さいころから植え付けることだと思います.例えば,省資源省資源とよく言いますが,これを本当に理解するには,その原料を生産あるいは入手することの大変さ,そこから先の加工・配送,リサイクルを含めたメンテナンスの大変さといったものを実感できないと省資源の本当の意味は理解できないのではないかと思います.個人的には,情報通信に携わる人は,工業や農業の産業革命を情報通信で実現すること,あるいは災害救助活動に情報通信で寄与することなどに意義を見いだして欲しいと思っています.


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