The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


年頭に想う

会長 安田靖彦

新年明けましておめでとうございます.

 我が国の経済はバブル崩壊後,ここ10年近く,巨額の赤字国債を毎年のよう に発行して景気対策を行ったにもかかわらず,一向に本格的な回復の兆しが見 えない状況です.経済面ばかりではなく,教育の荒廃や技術者・労働者のモラー ルの低下をはじめ,我が国の戦後システムが機能不全に陥っていることが,今 やだれの目にも明らかとなりつつあります.遅まきながら,この状況に対して, 各界で抜本的な改革へ向けた論議が活発化し始めました.

 ところで,本学会の会員数は平成6年度末の42,036をピークとしてその後 年率1%前後の割合で減少しており,まだこの傾向に歯止めがかかったとはい えない状況です.この状況は我が国が直面している上述の困難と無縁ではあり ません.抜本的な対策が必要であり,小手先の対策では大きな潮流に抗するこ とはできないように思えます.

 大雑把にいえば,従来,我が国の工学系では基幹的な産業に対応して大学の 学科が存在し,大学の学科に対応して専門学会が存在するという形態が長年続 いてきました.しかし,今や通信・放送・情報分野の融合をはじめ,電力業界 が通信事業に乗り出すなど,産業界自体が従来の枠組みを超えて構造的に変化 しつつあります.また,学問自体が細分化し,狭い分野でより深く掘り下げた 研究が行われる一方,従来は互いに関連の薄かった領域同士が同一の分野に糾 合し,新しい研究を進める形態が出現しております.このような学問分野の傾 向に対応して,大学においてもまだ大学院のレベルではありますが,従来の分 野を横断的に再編成する動きが出ております.こうした動きに学会としても対 応することが求められているのではないかと思います.

 その方策として,近隣学会との統合ないし合併が選択肢の一つとして考えら れます.学会の統合はこれまでにも何度か話題となりました.しかし,一般会 員の声は概して統合に賛成であるにもかかわらず,会員数が増加し,学会が成 長をしていたころには真剣に論議されないまま,今日に至っております.確か に,長年特定の学会を活動の場としてきたシニアな会員にとっては,学会が他 学会との統合や合併によって大きく変ることは,自分のアイデンティティが失 われるように感じられるのかもしれません.しかし,各学会とも最近は会員数 の減少ないしは停滞傾向が続いております.現在進行中の若年人口の減少化と それに続いて必然的に表面化する生産年齢人口の減少を考えると,一時的な変 動はあっても,長期的にはこの傾向が反転するとは考えられません.一方,最 近はソサイエティ制も定着し,各ソサイエティが学会内の専門学会として独立 性を強め,実質的な学会活動の大きな部分を担っております.近隣学会同士の 統合化ないし合併の意義は,これまでよりはるかに高くなっていると思います. 会員にとっては会費負担の軽減の可能性,近隣の学会内の似通ったソサイエティ または研究会での重複した活動の回避,あるいはより充実したサービスを享受 できる可能性等のメリットがあります.また,学会としては,共通経費の削減 や,規模の拡大によって可能となる英文論文誌の充実等を通して,今後ますま す重要となる国際活動の強化を図ることが可能となります.

 いうまでもなく,学会のあり方は会員自身の総意によって決まる事柄であり ます.まして,学会の統合や合併ということは相手のあることであり,そう簡 単に進む問題でないことは百も承知しております.新世紀へ向けた学会のあり 方について,あえて私見を披露させて頂いた次第です.


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