学会には先端技術と基礎研究の両方がある.情報通信の分野で,講演会,講 習会がいつも満員になるのは先端技術である.しかし,先端的なインタフェー スデザインよりも,基礎となる人間の特性を分析する方が論文としては採択さ れやすい.学会誌には先端技術と基礎研究がバランスをとりながら掲載されて いる.企業から大学に移って,最初考えさせられた.大学で主に評価されるの は論文であるが,世間が期待するのは先端技術である.産学共同への期待は先 端技術とそのビジネスへの応用に対する期待である.投資会社の人は,大学に は先端技術をビジネスに翻訳して話す人が必要であるとすらいっている.それ なら,学会の中心である論文自体が先端技術をもっと受け入れるようになって もいいのではないか.素晴らしいユーザインタフェースは理屈抜きに論文誌に 掲載されるべきではないだろうか.今のままでは学会会員4万人のうち大部分 は論文を投稿してなく,なおかつ論文誌を読まないようになってしまうのでは ないかと心配になる.
しかし,最近考え方が少し変った.学会には基礎研究,先端技術更にはその ビジネス応用が共存している.したがって,それぞれの分野についてはその活 動拠点があるべきで,ただ,その活動拠点が独立ではなく,お互いに影響すれ ばよいのだろう.基礎研究の活動拠点である論文誌の編集方針は,やはり学問 的に価値のある研究優先でよい.先端技術の開発についての討論は多くの会議・ 研究会で可能である.これらの成果を論文投稿する場合は,ある程度学問的に まとめる努力をすべきだろう.また,論文誌の方も学問的価値はそれほどなく ても,新鮮な技術をある程度受け入れるようになればよいだろう.基礎研究と 先端技術だけではなく,先端技術とビジネスの間の翻訳も学会の重要な仕事と なるかもしれない.基礎,先端,ビジネス,それぞれを中心としている会員が 共存して,学会の場で,それぞれの分野がお互いに刺激し合って発展できる環 境を整えることが,21 世紀の本学会の役割と考えている.