一方,私達は製造業,サービス業,官庁,大学,ユーザなどのそれぞれ異なっ た立場にいる.新しい基礎的なアイデアを掘り下げて論文という形で発表する 活動もあれば,既知の技術を組み合わせて応用し工夫し,コストを下げて製品 やサービスとして社会に提供するビジネスに従事している人もある.もちろん 異なった意見をもち,時には互いに競争する関係にあることもある.
さて,やや閉塞感の漂う今日,これを打破する鍵は異質な発想をもつ人達の 交流と連携にあるといわれている.電子情報通信学会も一層の発展を遂げるた めに,異なった立場の人達が出会う場としての役割をもっと活発に果たしてい くべきと考える.
最近,ある人が米国の学会で成果を発表した直後に,いくつかの企業からそ のアイデアを実用化したいので連携しないかというアクセスがあったという話 を聞いた.また,欧米の大学や公立の研究機関が産業界からの受託研究を積極 的に行っているが,それらのきっかけを作り出す場として学会活動を利用して いる模様である.ここには直接論文を発表する立場ではなく応用する立場の熱 心な聴衆がいることが注目される.
企業や機関では,ますます拡大する電子情報通信分野の,関連するすべての 研究を自組織で行うことが効率的でなくなっているので,研究開発の一部をア ウトソースすることが不可決と考えている.そのための情報入手の場として, 学会はもっと利用されてよいのではなかろうか.また,ビジネスウィーク誌8 月 31 日号の 21 世紀経済特集で指摘されているように,日本では情報化投資 が GDP の2%と低く,米国の4%,英国の3%に比べて心配であるが,電子 情報通信学会がユーザとベンダの出会いの場となるようにもっと利用されてよ いのではなかろうか.
ビジネスや行政の現場で活動する会員の多くは,冒頭 に述べたような共通の目的をもってはいても,いわゆるパッシブ会員であり学 会との接点が少ないきらいがあったが,これからは実利のある出会いの場とし て,学会を活用して頂けるようになりたい.