The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


マルチメディア時代に向けて

中国支部長 福井敏明

 電話交換機のソフトウェア開発に携わってきた経歴から,初めに電話交換の 歴史,変遷について触れてみたい. 1890 年 12 月,東京〜横浜間で日本で 初めて電話が開通,1899 年5月には下関の赤間関で開通し中国地方でもスター トを切った.もちろん当初は電話の交換(接続)は手動で行っていた.1926 年ステップバイステップ方式交換機により市内交換が自動化,1955 年には全 国をダイヤルで自動的につなぐクロスバ交換機が導入された.後に電子交換機 が開発されるが,それまでは布線論理制御方式であったものが蓄積プログラム 制御(SPC)方式に変り,音声だけでなくデータ,画像などの信号を高速に処 理できるようになった.現在は電話音声をディジタル化して取り扱うディジタ ル交換機が普及,昨年 12 月には全国ディジタル化の完了を迎えた。そしてイ ンターネットプロバイダの出現にみられるように,今や技術は回線をつなぐと いう領域を超え,情報流通のためにネットワークを管理・運用する時代に入っ てきている.

 さて,電話交換にとどまらず近年のマルチメディア技術の発展には目覚まし いものがある.コンテンツの分野としては電子商取引,在宅医療,遠隔教育, VOD など,一昔前までは空想の産物であったものが既に現実のものとして普及 し始めている.電子商取引に関していえば日本の市場は 1996 年で 285 億円 (郵政省調べ)の規模にまで成長し,2000 年には 8,400 億円市場に達すると の予測もある.

 一方,地域における状況はどうか.中国地域での場合は中国各5県を中心に 2000 年をめどに各エリア内ネットワークの光ファイバ化等を行う情報化計画 を進めてきている.とりわけ最も進んでいる岡山県では,岡山情報ハイウェイ 構想を掲げ地域情報ネットワーク化モデル実験に取り組み,現在では 318 企 業が参加するなど関心が高い.また広島県君田村では,高齢者の各種福祉サー ビス享受実現を目的に,昨年4月から自治体と NTT が共同で利用実験を行っ てきている.このように地域においてもマルチメディア市場は今後ますます成 長していくものと期待される.

 こうした状況の中,マルチメディア利用人口拡大という課題が挙げられる. 企業においては業務へのパソコン導入など利用者は必然的に増えている.一方, 小,中,高校の教育の場においてもパソコン学習などを授業に取り入れるケー スは耳にするが,教える側のスキル,人数はどうか.更なるマルチメディアの 発展のためには,環境的仕掛けの整備はいうに及ばず学校教育者の育成が不可 欠である.これは将来の電子工学および情報通信を学ぶ学生の増加に影響を与 え,学会の使命とも深くかかわることに相違ないはずであり,中国支部として も,現在,学校教育者育成の施策を計画中,その成果を期待しているところで ある.


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