The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


ネットワーク社会における学会

監事 今井秀樹

 ネットワークの急速な拡大は,学会にも様々な影響を与えずにはおかない. 学会の主な機能として情報交換と評価とがあるが,ネットワークの発展により 情報交換の機能の一部は相対的に低下しているようにみえる.IEEE には,シ ンポジウムの参加が増え,分野としては活性化しているのに会員数は減ってい るソサイエティがある.これは,情報交換機能低下の兆候なのかもしれない. 人と人とが会って行う情報交換はまだネットワークで代替できないが,論文誌 等のメディアとしての魅力は減っていることを示唆しているように思える.と すれば,学会がネットワーク社会において,その地位を保つには,ネットワー ク社会に適した情報交換機能への変革と共に,評価機能の充実が大きな課題と なるだろう.表彰や論文の査読,招待論文の選定などをいかに適切に行うかが, 極めて重要な意味をもってくる.しかも,国境を越えて自由に情報交換が行え るネットワーク社会では,学会に国際的な競争力が求められる.学会発展のた めには,その評価機能が国際的レベルに達していることが必須なのである.国 内だけでしか通用しないような評価を行っていたのでは,学会は衰退する.

 学会における評価の多くは研究者によってしか行えないが,研究者にとって, 他人の仕事の評価は達成感に乏しく,報われることも少ない.しかも,発展の 著しい分野で,国際的な視座から適切な評価ができるのは,その分野の世界の 動向を肌で感じている第一線の研究者だけである.日本の場合,そのような研 究者は,評価などに魅力を感じないことが多いように思える.ところが,欧米 ではそうでもない.

 IEEE 論文誌の記念特集号に招待論文を書いたときのことである.提出後, 一か月もしないうちに,二人の校閲者から照会が来た.驚いたことに,一方は 9ページ,他方は4ページびっしりコメントが書いてあったのである.彼らは, それで報酬を受けるわけでもないし,編集者以外に名前を知られることもない. 著者からみれば,やや不適切な指摘もあり,迷惑という感もしないではないが, そのボランティア精神には頭が下がる.もっとも,これはかなり例外的であり, 一般の論文の査読には問題も多い.しかし,少数であっても,有能で熱心なボ ランティアがいることは,IEEE の大きな強みであろう.

 我が国では,率直な評価が必ずしも受け入れられない社会的風土もあり,評 価に対する評価が高いとはいえない.しかし,少なくとも学会における質の高 い評価に,何らかの形でインセンティブが働くようにしなければ,学会の存続 すら難しい社会が到来しつつあるように思える.


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