The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


設計能力拡充に向けての産学共同

編集理事 白川 功

 来るべきディジタル時代に備え,超高速大容量通信や移動体通信のインフラ ストラクチャの構築は,我が国が技術立国として 21 世紀に向けて確保すべき 最も重要な戦略の一つである.わけても,音声・映像情報の処理あるいは通信 にかかわる多種多様なシステムやネットワークの構築のためのソフトウェア・ ハードウェア統合設計,あるいはそれらのキーテクノロジーを VLSI や IP (Intellectual Property)に実現するためのシステム合成手法は,その根幹 をなす基盤技術である.

 半導体は依然として「産業の米」であり,今後も国を支える重要な生命線で あるとの認識の下に,欧米や台湾に大きく遅れをとっていたシステム VLSIの 教育研究環境が 1995 年度になってようやく急転回し,チップ試作のパイロッ ト試行が通産省支援により始まり,1996 年度からは,東京大学を中心に新た に発足した文部省「大規模集積システム設計教育センター」に引き継がれて, 全国規模で多数のチップ試作が遂行されるようになった.ここに,学の長年の 夢であったシステム VLSI の教育研究環境が拡充され,先端的システムの実用 化研究に学も参入できる体制がどうにか整った.

 さて,1970 年代に始まった一連のマイクロコンピュータ革命とそれに伴う システムのダウンサイズ化の潮流は,1980 年代に入って,システム VLSI,わ けても ASIC の開発競争を促し,時を同じくして,論理合成や高位合成など, CAD 算法の飛躍的進展によって「トップダウン設計」なる新しい設計法が導入 され,いまやハードウェア・ソフトウェア統合設計分野で一大技術革新が進行 している.しかるに,産では,設計人力の不足により,ますます増大する設計 量と設計複雑度に対処すべく,先進システムの研究開発の大半を外注に委ねて いるが,国内のシステムハウスのほとんどがアーキテクチャなどの上流設計の 研究開発能力が欠落し,下流設計だけを主な生業としているため,上流設計は 外国のシステムハウスに頼らざるを得ない状況にある.ここに,ハードウェア・ ソフトウェア統合設計の上流工程を主な対象とする新しいタイプのシステムハ ウスの出現が強く望まれるに至った.

 このような現況に鑑み,学で上流設計能力を組織的に創出し,産で不足する 設計人力に充当するという仕組みを実現することこそ,我が国が技術立国とし て採るべき重要な現実的方策であると考える.本学会はこのような産学のかけ 橋としての機能を模索し,そのための何らかの仕掛けを具現する時期にきてい るのではないかと痛感する次第である.


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