The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


マルチメディア時代の論文誌

総務理事 加藤邦紘

 私の手元に1枚の CD-ROM がある.電子情報通信学会論文誌〈テスト版〉と 題され,中には電子化された論文誌のサンプルが格納されている.昨年度電子 情報通信学会が発行した論文誌は,和文論文,英文論文合わせて 16,000 ペー ジにのぼる.これらを書棚に並べれば1メートル近くの幅を占有してしまう. これに比べ電子化されたものは,形式にもよるらしいが CD-ROM 数枚程度に収 まり,厚さはわずか数センチである.同じ情報量でありながら大変な省スペー ス化である.

 一昔前はパソコンのソフトウェアといえばフロッピーディスクで売られてい たものであるが,最近は必要枚数の増加のためか,CD-ROM のものが多い. CD-ROM を読める環境をもつ人がかなり多くなっているようだ.ソフトウェア そのものの種類もかなり増加している.最近では CD-ROM による百科事典,幼 児や低学年用の学習ソフトなど,ゲーム以外にも様々なものが販売されより身 近なものになっている.いつまでも劣化しないと思われる CD-ROM であるが, 通常使われている CD-ROM は 20 年程度の耐用年数といわれている.マルクス エンゲルス全集の電子出版などでは 100 年以上の耐用年数をもつ CD-ROM が 利用されているようだ.

 さて,今の学会論文であるが,文字と若干の図表で構成されている場合が普 通である.CD-ROM の中身も印刷された論文を電子媒体で置き換えただけであ るので何の違いもない.しかし,電子媒体であるのだから,もっと豊富な表現 も可能である.文字や図といったメディアだけでなく,音や動画などのメディ アを組み込んで利用することもできる.多彩なメディアを活用した方が読者に も理解しやすい場合が多い.マルチメディアといっても,現在あるものをその まま電子化するだけではまだ第1段階にすぎない.マルチメディアは時として 予想を超えた新たな世界を生み出す.論文の場合には印刷配布が前提という制 約もあるが,読者にとってよりわかりやすいものを追求する姿勢も重要ではな いかと思う.

 これからもメディアは進化し続け,電子化された論文誌の発行も続けられる に違いない.近い将来,電子化された論文誌が魅力的でわかりやすいマルチメ ディアプレゼンテーションになっていることを期待したい.


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