The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


個の独創と群の創造

編集長 植之原道行

 「資源・エネルギーに乏しい我が国が生き永らえるためには,技術立国を目 指すより方法はない.創造性豊かな自主技術を開発して新事業を創造し,世界 の経済発展に貢献しなければならない.」などといわれて久しい.創造性豊か な自主技術を開発するには,欧米の基礎研究に依存するだけでなく,日本も基 礎研究投資を増大して,世界の科学技術の発展に貢献する独創的な成果を上げ なければならない.やっと科学技術基本法が成立して,国の研究予算が大幅に 増大されることになった.他の国々の研究予算が縮小傾向の中で,日本は羨望 の的になっている.独創的な研究成果が生まれない原因を,研究費の乏しさに することはできなくなった.

 皆が協力し,広く知識を世界に求めて成果を上げる群の創造には,日本は, 特に産業は素晴らしい実績を上げてきた.しかし,不確定性の高い,非常識と も思われる個の独創を育てることには,残念ながら社会環境にもリーダーにも 恵まれてこなかった.日本人は独創性に乏しいといわれるが,そんなことはな い.世界に誇れる独創的成果も少なからず生まれてきたし,現在多くの独創的 な若者が活躍の場を求めて悩んでいる.研究費が増えれば独創的研究が増える わけではない.独創的成果を高く評価する環境とリーダーの役割が重要である.

 その環境を形成するインフラの重要なものとして,学会があり研究会があり 論文誌,学会誌がある.日本の研究者は概して,面子にこだわり独創的成果を 大胆に発表することを躊躇する傾向があるのではないか.そのために,過去に プライオリティを欧米の学者に奪われたケースが多々ある.日本語のハンディ キャップもあった.しかし現在は,国際的な発表の機会が増えて,優秀な論文 が著名な外国の論文誌に流れて編集者は苦慮している.

 当学会の論文誌を,世界の研究者が注目するような独創的な研究成果が多く 掲載され,世界的に広く購読される論文誌に育てたいものである.和文誌がそ うなるには永い年月がかかるであろう.しかし英文誌は,内容さえ充実されれ ば,短い期間で着目誌になることは可能であろう.独創的な成果を速報で,ど の論文誌よりも早く出版するのも一つの選択であると思う.速報でプライオリ ティを確保してから,ゆっくりと後世に残るしっかりとした本論文を発表すれ ばよい.他誌より早く出版するには,査読委員の協力が必要である.個の独創 にはリスクは付き物である.独創性を認めたら,大胆に発表させる勇気が必要 である.会員の意見をお待ちしている.


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