The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


学会と私

企画・調査理事 前田 稔

 学生時代に本学会に入会し,今年で 33 年になる.この間,仕事も研究開発 部門から事業部門に変り,現在に至っている.学会とのお付き合いの仕方も, 年代や仕事と共に,移り変った.

 学生時代,ほとんど理解できぬままに放置された学会誌が埃を被っていたの を思い出す.大学院に進学し,学会誌で研究の気分のみを味わい,いつの日か 自分の論文を発表できるようになれるのだろうかと思っていた.就職して研究 開発部門に配属が決まり,五里霧中で仕事をし始めた.研究の進め方も考え方 もわからぬまま,先輩諸氏の業績を学会誌で学ばせて頂き,どこまでが既知で, どこからが未知の領域であるかを知り得た.20 代中ごろまでは,専ら学会誌 を情報の宝庫として活用させて頂くという,受け身のお付き合いの時代であっ た.

 自分の仕事の分野の状況もつかめ,多少とも未知の世界に踏み出すころから, 付き合い方も変った.自分なりに考え,工夫をし,一歩踏み出した(と思った) 仕事を,全国大会に発表することから始まった.他の機関でも同世代の研究者 の方々が同じ分野の仕事を進めておられ,春と秋の全国大会で競って発表した 予稿集が送られてくる度に一喜一憂し,発表の場で議論したのが壊かしく思い 出される.初めての論文が学会誌(残念ながら,当時本学会に英文誌がなかっ たので,海外の学会誌に投稿した)に掲載されたときの感激も忘れられない. 仕事の分野は,この間,無線から光へと大きく変ったが,30 代中ごろまでが 技術者としては学会と本来的意味において最も深くお付き合いさせて頂いた時 代といえる.論文を発表し,議論して頂き,技術者としての自分を磨くことが できたのも,また先輩諸氏や同じ分野の仲間と多く知り合えたのも,すべてこ の時代の学会参加を通じてであった.

 その後,仕事も研究開発の実務担当からマネージメント的色彩が濃くなるに つれ,自分自身での論文発表の機会は減少した.学会誌も学生時代と同様に埃 を被っていることが多くなった.しかし,論文委員,研究会専門委員,国際学 会の委員などを仰せつかるなどにより,専門分野外の方々とも知り合う機会は 増えた.

 学会とのかかわりで得られた最大の財産は,このような人とのつながり(ヒュー マンネットワーク)だと考えている.端末の前に座るだけで世界中の情報が得 られる時代であるが,真に生きた情報はヒューマンネットワークの中にあると 思う.若い研究者,技術者にも,学会を技術を磨く場として,併せて自分のヒュー マンネットワークを形成する場として,積極的に活用されることを期待したい.


IEICEホームページ
E-mail: webmaster@ieice.org