The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers


大学院後期課程進学希望者の伸び悩みを憂う

東北支部長 米山 務

 学生の理工系離れがいわれて久しい.もう一つの憂慮すべき問題 は大学院後期課程への進学者数の伸び悩みである.今,日本の科学 技術は生産至上主義からの転換期にある.大学は若い頭脳をこれま で以上に必要としている.それでは大学が抱える問題点は何か.大 学人の視点で考えてみる.

 かつて,大学の研究設備の貧弱さや研究費不足が指摘されたこと があった.この点については,最近著しく改善されている.科学研 究費や企業からの研究費で,大学での研究はほぼ不自由なくできる. 大学院学生が研究設備に不満を感じる状況は解消されたのではない か.

 以前,大学の研究室では個々の研究者が独立して行う個人プレー 的研究が多かった.研究の進め方やテーマの選定で,かなり学生の 意見が通り,それ故,学生には主体的に研究にかかわっているとい う意識があった.現在では研究プロジェクトが大型化されたため, 研究室は組織化され,研究はチームプレー化された.研究テーマは もとより,研究の進ちょくまで研究室全体の計画に従って制約を受 けざるを得ない.自分の判断で動ける範囲は確かに狭くなった.し かし,これとて後期課程進学を妨げる理由とはならない.集団研究 でも個人の成果は充分評価される.

 問題は経済的なところにある.たとえ奨学金を貸与されたとして も,学位取得のため3年間に払う経済的犠牲はあまりに大きい.論 文博士の制度がある日本では,就職して学位を取得する方がはるか に有利である.将来的には論文博士は大学院社会人入学制度に次第 に吸収すべきである.一方,大学院生の経済的支援については,特 別研究員や非常勤研究員の大幅な枠の拡大,TA・RA 制度の充実に 期待する.もはや精神論だけでは若者を大学の研究室にとどめてお くことはできない.経済的支援体制の充実こそ最も有効な手段であ る.

 最後に指摘したいのは,学生の研究に対する認識である.周知の ように研究は多層的である.大別して開発研究と基礎研究,および その中間の研究がある.開発研究は企業が得意とし,基礎研究は大 学の領域である.基礎研究では,必ずしも成果は期待できない.た とえ成果があっても,すぐに実用化されるとは限らない.私事で恐 縮だが,学生時代からミリ波を研究している.ミリ波円形導波管通 信システムの研究が全盛のころは研究が楽しかったが,その後,長 い中断があった.しかし,研究成果はこの中断の時期に得られた. このように大学の研究は,いつ成果があり,いつ実用化されるかわ からない.開発研究に比べて地味で,効率が著しく悪い.しかし夢 がある.この点を理解すると大学における研究も魅力的になる.

 以上述べたように,大学は研究の場にふさわしい体制を整備しつ つある.残された問題は学生の研究に対する価値観である.日本が 今後必要とするのは独創的,創造的科学技術である.将来の学術活 動を支えるべき若い研究者に期待するところが大きい.


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