|
■4. ヒト知能をみる
fMRIの普及により,健常なヒトの脳活動の非侵襲測定が可能になり,正にヒト知能の活動を見ることが可能になってきた.動物実験ができないこと,心理実験の行動データだけからでは十分な本質的データが得られないため,fMRI測定はヒト知能研究に本質的なブレークスルーを与える可能性がある.4.では,筆者の行ってきた海馬における瞬時学習の脳イメージング研究を紹介し,ヒト固有の記憶と知能の研究が可能になりつつある現状をのぞいて頂きたいと思う.
4.1 海馬における瞬時学習
筆者らは,記憶とりわけエピソード記憶の形成に重要な役割を果たす海馬(Hippocampus)に焦点を絞り,一連の記憶の脳イメージング研究(12)を行った.特に,今まで知られていなかった「高次認知と海馬の関係」を明らかにし,問題解決など高次認知活動に伴う海馬の役割を明らかにした.
第1の実験(13)では,海馬傍回が確かに最近の体験の記憶形成と維持に関係していることを世界で始めてヒトMRI実験で明らかにした.我々の実験ではヒトの空間的散策行動の記憶を尋ね実験に成功したが,過去に起った事実について尋ねた場合は新旧いずれの記憶でも海馬の活動が見られる(14).記憶の形成と変容,維持に海馬が関与しているが,散策行動の記憶形成とヒト固有の思考や問題解決を含む「知的行動」の記憶形成には海馬の使われ方に相違がある可能性がある.
第2の実験(15)では,上記の疑問に答える意味もあり,海馬が意味記憶の想起に果たす役割をfMRIで調べた.「意味記憶の形成と想起」を一つの実験で同時に比較検討できる実験デザイン(図5)を用いて,意味記憶の想起に海馬が関与していることを証明した(図6).


図6 意味記憶想起条件( :上),意味記憶形成条件( :下)での海馬の活動 両者関係条件−無関係条件で最大のコントラストを示した海馬ボクセルからの記録. |
この実験課題(図5)では,「提示される3文字の中で,上部の1文字に対して,下部の左右どちらが意味的に近いか」を判断させる.下部の2文字のいずれもが意味的に近い場合(両者関係条件)判定のため意味情報の検索が高頻度に起ると考えられる(意味記憶想起条件).2文字のいずれもが意味的に異なっている場合(無関係条件)は,意味的関連性がないため検索が起らないが,タスクは困難(conflict)であるとともに,記憶実験心理では新しい意味的記憶の形成が起ると考えられている.
今までの理論では,無関係条件で記憶の形成が起り,海馬が働くと考えられていた.この実験結果は,この実験状況で与えられたタスクの目的に従って,意味記憶の検索が選択的に行われ,またその知的活動自体が記憶されることを示唆している.
この結果は,記憶や学習といった機能は独立ではなく,高次の認知機能とともに働き,強く連携していることを示している.第3の実験(15)では,人間の高次認知機能の中でも最高峰の創造性の原動力でもある「洞察(インサイト)」の脳イメージング研究を試み,上記の考えが正しいことを確かめた.
洞察は突発的な現象なので実験は困難と考えられていたが,以下に紹介するように実験を特に工夫し,MRI実験を可能にした.実験では「なぞなぞ」を使い,十分考えた末に「理解できて,面白いが解が分からない」状態で「解」を見せ,エッ!なるほど!アー!等の感動を伴う「理解・納得」時の脳活動の事象解析を行った.図6とほぼ同様な,海馬での非常に大きな活動が見られる.ここで紹介した「感動」はAHA(驚いたときのアハ!)現象として知られており,知的活動が知的満足を伴い,それゆえに良い学習・記憶が成立することを示している.
|