■4. 近赤外光トポグラフィーの原理と特長

 4.1 原理

 図6に近赤外光トポグラフィーの基本原理と被験者へのインタフェース部を示す.人間の頭部は外側から内側に向けて,頭皮(毛髪を含む),頭がい骨,硬膜・軟膜,脳脊ずい液層,大脳皮質(灰白質),白質の順で層状構造をなす.頭皮の外から光ファイバで近赤外光を照射すると,成人の場合でも一部の光は25〜30mm程度の深部まで到達し,白質や灰白質(大脳皮質)で反射して再び頭皮の外まで戻ってくる.頭皮の外まで戻ってきた散乱・反射光を,照射位置から30mm程度離れた位置にて光ファイバで検出すると,バナナ形状の光路によって大脳皮質の状態を分光計測できる.


図6 近赤外光トポグラフィーの原理とインタフェース部
図6 近赤外光トポグラフィーの原理とインタフェース部
(a)
(b)


図6 近赤外光トポグラフィーの原理とインタフェース部


 大脳皮質の神経活動と局所血行動態は密接にリンクしている.局所血行動態は,局所の血中ヘモグロビンを分光計測することにより観測できる.血液中の酸化型ヘモグロビンと還元型ヘモグロビンは,両者とも近赤外領域に異なった吸収スペクトルを持ち,等吸収点は800nm近傍にある.したがって酸化型・還元型ヘモグロビンの両者を多波長の多点計測することにより,それぞれの成分の濃度変化を知ることができる.

 実際には組織からの強い光散乱があるので,照射/検出のオプトード対を並べるだけでは画像化できない.しかし,図7に示す新たな方法を開発して,大脳皮質におけるヘモグロビン分子種のマップを作成することに成功した(6)〜(8).まず,照射/検出のすべてのチャネルについて,それぞれ異なった変調周波数を割り当てて計測位置をエンコードし,ロックイン増幅器による位相敏感検波によってデコードする.また,多波長同時分光についても,異なった波長の近赤外半導体レーザ光にそれぞれ異なった変調周波数を割り当てて波長をエンコードし,ロックイン増幅器による位相敏感検波によってデコードする.例えば,2波長24チャネル計測の際には,48の異なった変調周波数が割り振られた.


図7 近赤外光トポグラフィーの原理を示すブロック図

図7 近赤外光トポグラフィーの原理を示すブロック図


 光CTとは異なり断層像を得るのではないので,散乱成分を除去せずとも実用に供せられる画像が得られる.その反面,強い光散乱のために光路長を正確に特定できない場合が多く,現状ではfMRIと同じく濃度変化を中心に観測している.絶対値計測のために時間分解測光法や位相変調測光法の適用も検討されている.しかし,脳表面が不均質な多層構造であるため,空間分解能や信頼性のより高い結果を得ることは今後の課題となっている(9)

 4.2 特長

 なお,近赤外光トポグラフィーの光源に用いられる1〜10mWクラスの近赤外半導体レーザは,人体に直接照射しても十分に安全であることが確認されている(10).このことから,近赤外光トポグラフィー法は新生児や乳幼児にも安全に適用できる.

 また,近赤外光トポグラフィーは,動的空間分解能に優れるため,自然な脳活動をモニタする際にも有効である.例えば,0.1秒ごとに連続して画像を取得し,移動平均による動画像によって刻々と変化する高次脳機能を観察することも可能である.また,図4に示したように,光ファイバを頭皮に触れさせるだけで計測できるので,“自然な環境下”で,かつ“完全無侵襲的”に高次脳機能の動態イメージングが可能である.自然な検査環境とは,

 @ 狭い空間に閉じ込められない
 A ある程度動くことができる
 B 騒音がない

などの点である.近赤外光トポグラフィーに用いられる近赤外線は無害であり,更に装置がコンパクトで可搬性があるなどの特徴を持つ.また,使用される光は磁界や高周波と相互干渉がないため,ほかのモダリティと同時計測が可能である.これらの特徴を備えた近赤外光トポグラフィーは新たな応用分野へと展開しつつある.



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