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3.2 A Monumental Blunder
ここでいわば暗礁に乗り上げてしまったといえるわけです.その後もUFMPを保持する有機溶媒の濃度を変化させるなどを行って少しでも良好なデータを得ようと試行錯誤を繰り返していたときに,私は大きなミスを犯してしまいました.「A
Monumental Blunder」,記念碑的な大失敗を犯してしまったわけです(図8).
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図8 巨大分子イオン生成の瞬間A Monumental
Blunder
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UFMPの保持剤の有機溶剤として通常アセトンを用いていましたが,ある日,間違ってアセトンの代りにグリセリンを使ってしまったのです.UFMPは高いので捨ててしまうのはもったいない,これでも試してみるかと思い,何とその失敗作をマトリックス溶液として使ってしまいました.試料分析装置では通常真空中でイオンを測定する.グリセリンは真空中で徐々に気化します,いずれなくなる,待っていればそのうちイオンが見えるようになるだろう.でも,1分でも速く結果を見たい.レーザを当てながらスペクトルを見ていました.このように少なくとも四つのファクターがすべてそろって,以前に見られなかった現象を初めて観察することができました.すごい偶然の積み重ねです.
最初に測定したのはビタミンB12であったと思います.この試料はレーザ光を極めて効率高く吸収できます.これまでは分解イオンのみが強い感度で測定できていました.しかしこのUFMPグリセリンの混合マトリックスを用いますと,分解していないイオン,分子イオンですが,壊れないイオンが測定されると思われる位置に,最初,ノイズと思われるピークが見えました,何度測っても見えました,試料を変えても分子イオンが見えていたわけです(図9).その後,濃度などのパラメータを最適化しながら高分子,高質量イオンと進展していった結果,質量数としては10万を超えるもの(もう既にたんぱく質です),そして,分子量としては35,000のイオンが測定できるようになりました(図10).これを行ったのは1985年の春です.そして,日本でこのイオン化法の特許を出願し,後ほど成立したわけです.これがノーベル財団及びスウェーデン科学アカデミーの方々に認めて頂いた一つの公的な印,エビデンスであったわけです(図11).
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図9 リゾチームLysozyme(M.W.:〜14kDa)クラスタイオン測定
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図10 カルボキシペプチターゼCarboxypeptidase-A
(M.W.:〜35kDa)分子イオン測定
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図11 UFMP/グリセリンマトリックスによる巨大分子脱離イオン化(1985)
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なぜ,巨大分子を壊さずにイオン化できるようになったか,それを考察してみます.UFMPは高速で高温に到達することができる,それには役立つ.しかし,これに通常の有機化合物を混合しても十分に混ざりません.電子顕微鏡で見ますと不均一です.これにグリセリンを混ぜた場合ですが均一になります.また,グリセリンは試料を結晶状態から解き放つことにも役立っていると考えられます.これらの効果によって分子量1万を超える有機化合物からでも分子イオンを測定できるようになったと思われます.
私はここまでで,レーザ光によって巨大分子イオンが発生する原理を紹介しました.しかし,これはまだ証明されたわけではありません,必ずしも正しいとはいえません.私が発見した技術,ソフトレーザ脱離法の後に大きく進展しました技術「マトリックス支援レーザ脱離イオン化法」,通常マルディ(MALDI)と呼ばれていますが,それに対し私自身も,自分でいうのは何なのですが知識が深い方だと思うのですが,私がこの現象を理論的に正しくとらえたとはいえないと思います.科学者,サイエンティストとして義務を果たしているとはいえません.でも,私はエンジニアです,企業に働く技術者です.例え原理的に不確かなものでも,それが役に立つ技術,実用的であれば,実学であれば活用することを優先します.
実際,質量分析学会の中でも,15年以上たった今でも解明しきっているとはいえません.もし,私が大学など研究機関に働いていて理論的な裏付けを重んじる,それがなければ納得しないというふうな感じでいったら,いまだにこの技術は世界の人に役立つ技術に育っていなかった可能性もあります.でも,実用化,利潤を追求する企業ならではの欠点も少なからずあります.理論を軽視したためにこの技術の成果を十分に味わうことができなかった,あるいは技術の発展に十分貢献することができなかったという歴史的事実もあります.
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