■9. 明日を目指した更なる取組みも続く

 近年の情報化技術の進歩は急速であるが,鉄道システムも進化している.より優れた鉄道を目指す新システムの導入やシステムの改良は今も盛んだ.例えば,首都圏の17線区を一元管理・制御するATOS(用語)がある(図7).駅を中心に行われていた従来の輸送業務を文字通り指令中心にしようというもので,ワークステーション,PCサーバ2,000台がネットワークで結ばれた広域システムだ.ダイヤを管理する指令を核に,情報の一元化やシステムの統合化が実現する.運転取扱業務の近代化や保守作業の効率化と安全性向上,乗客へのサービス向上などねらいも多い.当初,運転整理に時間を要し混乱も見られたものの,今日では順調に稼動している.今後,より柔軟で迅速な運転整理に本領を発揮しよう.実際の工事では,あまりにも広域なため,稼動を継続しながら一部ずつシステムを更新していくという芸当が求められた.この難問も,鉄道技術者は,ディペンダビリティを維持しつつ異種システムを結合させるというアシュアランス技術(用語)に依拠して乗り切った.


図7 東京圏運行管理システムATOSの中央指令卓

図7 東京圏運行管理システムATOSの中央指令卓
受け持ち線区の全情報が集まり,的確な指令を行う.



 速度信号で制御していたATC(自動列車制御装置)は,停止限界までの距離によって制御する1段パターン制御に移行しつつある(図8).更には,地上の信号機によらず,列車と地上が無線を介して直接情報交換しながら柔軟かつ高度な保安制御を実現しようという意欲的な開発も進んでいる.

図8 従来型 ATC と新しい ATC の違い

図8 従来型 ATC と新しい ATC の違い
これまでは,各速度段以下になるようにブレーキがかけられたが,ディジタルATCは停止点までに止まり得る連続のパターンと速度を比較する.



 ところで,少子高齢化社会における鉄道輸送は,右肩上がりの輸送を前提としていた輸送力増強から小編成高頻度運転といったサービスへとニーズが変るだろう.また,平時を想定して構築されたシステムは,乱れ時の対応が万全ではない.平時・異常時といった相の異なる事態に万能な制御システムも望まれる.このような多様なニーズの変化に対して柔軟に対応できる進化型のシステムを目指した研究も行われている.世界の先端をいく日本の鉄道技術のチャレンジ精神は旺盛である.現状を維持するのみでなく,更に快適で便利な鉄道のあり方を目指すこのような努力こそが,優れた日本の鉄道を支え続ける源泉といえよう.


■10. あ と が き

 日本の誇る二つの福音について紹介し,その源泉も探った.では,両者に共通するのは何だったのだろうか.解は“みず穂の国”そう信じている.西欧の民営化では国鉄は上下分離され,契約で輸送が再構築された.が,英国鉄道は維持に窮している.日本は,地域分割となっても業務の全領域が任された.携帯も通信事業と機器の販売,プロバイダまで業務が一貫して展開できた.欧米では携帯事業者とプロバイダは契約関係であろう.信頼,協働が命の農耕民族の本領が企業活動でも発揮できたこと,これこそ両者共通の幸いであった.もちろんすべてがhappyなわけではない.それぞれに課題を抱えることも事実である.しかし,間違いなく世界に誇り得る技術,風土のあることを再認識することも悪くはない.



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