■7. 世界に誇る交通輸送 ――正確さNo.1の鉄道輸送――

 世界を席巻しているといえば旅客鉄道輸送もそうである.世界の鉄道利用者数は1日当り1億6千万人といわれる.なんと,そのうちの6千万人強,実に1/3は我が国の鉄道を利用している(図4).運んだ距離を加味したらどうなるであろうか.旅客の輸送量の尺度に輸送人キロがある.1997年度,日本は4,952億人キロであったのに対し,英国,ドイツ,フランスの3か国を合わせても我が国の1/3程度(1,668億人キロ)であった.JR東日本だけでも1日に1万2,500本の列車を走らせ,その走行キロは70万キロに及ぶ.営業規模と国民生活への寄与という点で,我が国の鉄道輸送が世界一ということは間違いない.

図4 世界の1日の鉄道利用客数と日本のシェア

図4 世界の1日の鉄道利用客数と日本のシェア


 規模のみではない.我が国の鉄道の正確さには定評がある.JR東日本の統計によると,2001年度における1列車当りの遅れは,新幹線が0.4分,在来線が0.7分であったという(図5).この遅れは,総遅延時分を総列車本数で割った値であるが,そもそも海外では,5分や10分以下は遅延としない事業者が多い.例えば,デンマークでの2001年の実績では,遅延5分以内で運行された列車の割合が92%であった.また,英国における2001年の定時運行率は78.0%というが,長距離が10分,その他は5分以内なら遅れてもすべて定時としたときの実績である.JR東日本では,1分以上を遅れとして定時運行率の実績が在来線87%,新幹線95%であるという(1999年度).

図5 JR東日本の列車当り平均遅れ時分の推移

図5 JR東日本の列車当り平均遅れ時分の推移
ほぼ,1秒以下という水準を維持している.


■8. 正確さを生み出した日本の特殊性とは

 この定時性という日本の鉄道の特性に関しては,三戸裕子女史による著書「定刻発車(交通新聞社)」が詳しい.そこには,日本の鉄道の正確さの原因として,「日本民族が早くから時刻というものを生活の中に意識してきたこと」そして,「時刻をゆるがせにできないプロジェクトが幾度となくあり洗練されてきたこと」など,興味ある見解が披露されている.また,我が国の特殊性として鉄道インフラの持つ余裕の少なさにも目を向けている.余裕とは線路などの設備容量や駅のホームの数などを指している.欧米と比べ余裕の少ない日本では,ひとたび乱れるや,番線をやりくりしてそれをさばくといったこともできない.このため,必然的に定時運転指向になるという論である.確かに,いったん余裕を超えて乱れるとその収拾に甚大な労力を必要とする.一方,定時で運転している限り作業員の負荷は軽減されるし,システムとしても安定する.ただ,平時と乱れ時の労苦の差は程度の差こそあれどこも同じと考えると,三戸女史も述べていることではあるが,やはり定時運転を支える技術と鉄道員の高い意識の差を強調したくなる.

 定時運転は,実に多くの担当者が一糸乱れず己の職責を全うすることが不可欠である(図6).契約世界と逆の極地に立つ日本の鉄道員には,職責を越えて困難に立ち向かう気概と伝統があった.同時に,定時運転を可能とする技術的水準の高さも忘れてはならない.定時運転には,乱れ時の迅速な対応以上に,乱れそのものを発生させない平時の努力こそ大事というわけだ.また,相互直通運転という日本の都市鉄道の形態も,折り返し駅のロスを軽減し安定輸送に大きな効果をもたらしている.都市鉄道のあり方という行政を含めた高所からの施策が功を奏している事例である.

図6 快走する新型あずさ

図6 快走する新型あずさ
正確な輸送は規律ある鉄道員のチームプレーの賜物.

 



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