電子情報通信学会会誌

Vol.85 No.6 pp.392-396
2002年6月

小野 博 文部科学省メディア教育開発センター
E-mail ono@nime.ac.jp

University Renovation and Network Learning:Can Japan Succeed in Virtual University?
By Hiroshi ONO, Nonmember (National Institute of Multimedia Education, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology, Chiba-shi, 261-0014 Japan).




大学の教育改革とネットワークを利用した学習



■1. は じ め に


 文部科学省(平成13年4月)は,大学学部の卒業に必要な124単位中60単位を,対面授業と同等の効果が認められるネットワークを利用した学習と試験で単位を与えてよい制度を導入した.しかし,インフラの整備や学習用コンテンツが十分整わない状況でのスタートであったため,ほとんど普及していないのが現状である.また,一部の学者は米国で普及しつつあるバーチャルユニバーシティ(用語)の盛況を見て,日本でもネットワークを利用した遠隔教育が米国のように急成長すると論じている.しかし,日本には4年制大学が600以上,短大が500以上あるにもかかわらず遠隔教育(通信教育)を実施している大学は約30大学にすぎない.教育文化の影響で,日本は諸外国に比べ遠隔教育の需要そのものが少ないことを理解した上での発言なのかが疑われる.さて,米国の遠隔教育による大学卒業率は15〜30%であるといわれており,日本の放送大学でも約24%程度である.不完全な準備状況でのスタートが,多くのドロップアウトを生み出したり,中途半端な学習が更なる大学生の学力低下をもたらすのではないかと危惧する声もある(1)


■2. 日本の大学に求められている改革


 ここで,日本の大学に求められている改革について述べる.日本では18歳人口の急激な減少や進学率の伸び悩みにもかかわらず,高等教育の拡大が続いている.現在では短大の7割,4年制大学の3割が定員割れを起している.そのため,多くの大学が全員入学,あるいはそれに近い状況になっており,同じ大学,同じ学部の中でも入学者の基礎学力幅の拡大に悩まされている.講義の内容が理解できない学生が続出し,「授業の成立」そのものが危ぶまれている大学さえある.この状況を「大学のアメリカ化」と呼ぶ学者もいる.しかし,米国の全員入学(オープンアドミッション)のコミュニティカレッジでは厳密なプレースメントテスト(用語)と,その結果に基づくリメディアル教育(補習学習)によって,学生の教育水準の維持が図られている.一方,日本の大学ではリメディアル教育そのものが始まったばかりである.ちなみに,ハワイ大学のあるコミュニティカレッジでは,入学学生の約半数は,入学後,英語,数学の高校レベルの授業が義務付けられており,更に,その受講者の半数は,再テストに合格せず自動退学となっている.このようなルールを日本の大学でも早急に確立する必要がある.

 以上のような状況の中で展開する日本でのネットワークを利用した学習は,米国のような「ビジネス」ではなく「教育サ−ビス」としての視点が必要である.今,日本の大学の改革の焦点は「入試の改革」から「学生の教育水準の維持」,「教員の資質の向上(FD:Fuculty Development)」に移動しつつあるといっても過言ではない.



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