電子情報通信学会会誌

Vol.85 No.5 pp.298-305
2002年5月

北山研一 正員 大阪大学大学院工学研究科電子情報エネルギー専攻
E-mail kitayama@comm.eng.osaka-u.ac.jp

An Introduction:Toward the Creation of 21st-Century Innovative Network and Its Impacts.
By Ken-ichi KITAYAMA, Member (Graduate School of Engineering, Osaka University, Osaka-fu, 565-0871 Japan).




総論 21世紀ネットワークの創造と限りないインパクト




 ネットワークの価値はホストコンピュータの数の自乗,すなわちコネクションの数に比例して上昇するという『メトカーフの法則』は,まさにインターネットを物語っている.2000年にインターネットのホストコンピュータの数は世界中で1億台を越え,過去5年間の伸びは平均で年率約1.6倍である.この数字をメトカーフの法則に当てはめると,最近の5年間でインターネットの価値は少なくとも100倍以上になったことになる.実際にe-commerceの取引額はそのとおり拡大しており,行政,産業,社会生活,芸術,科学更には教育におけるインターネットによる利便性の向上も陽には数字に現れないが同様のトレンドをたどっているといえるであろう.2005年には日本の総トラヒック容量は2,000〜20,000倍 (6Tbit/s-60Tbit/s) になると予想されている.しかしながら最近では,インターネットにしばしばふくそうが生じぜい弱さを露呈しており,このような未曽有の膨張に対して,インターネットはやがて崩壊するのではないかという不安を感じるユーザも少なくないであろう.

 このようなトラヒックの爆発的な増大とインターネットのぜい弱さという問題に対して,フォトニック技術がソリューションを与えることができるのであろうか.そしてメトカーフの法則を現実のインターネットで成り立たせ,インターネットの価値を真に高めることができるであろうか.本特集のねらいは,『フォトニックIPネットワークは人類の幸せのために』という命題を,研究開発に携わる技術者が証明することこそが,本来の使命であることを改めて認識することにある.

 本総論では,フォトニック技術がIPバックボーンネットワークへ与えるインパクト及び技術的なチャレンジを概観し,更に究極的なフォトニック技術のポテンシャルを明らかにして各論のイントロダクションとする.

キーワード:フォトニックネットワーク,IP,バックボーンネットワーク,WDM,QoS,フォトニックルータ



■1. ま え が き


 ネットワークの価値はホストコンピュータの数の自乗,すなわちコネクションの数に比例して上昇するという『メトカーフの法則』は,まさにインターネットを物語っている.2000年にインターネットのホストコンピュータの数は世界中で1億台を越え,過去5年間の伸びは平均で年率約1.6倍である(1).この数字をメトカーフの法則に当てはめると,最近の5年間でインターネットの価値は少なくとも100倍以上になったことになる.実際にe-commerceの取引額はそのとおり拡大しており(2),行政,産業,社会生活,芸術,科学更には教育におけるインターネットによる利便性の向上も陽には数字に現れないが,同様のトレンドをたどっているといえるであろう.

 インターネットが一般ユーザへ急速に普及した原因はWebというキラーアプリケーションが存在するためであり,米国における昨年11月のYahoo等の人気トップ10のサイトのビジター数は約4億人/月と報告されている(3).今後,FTTHやワイヤレスセルラーシステムなどのFirst/Last one mileの高速化が進み,GNUTERAやGoogle等のアプリケーションによりP2P(ピアツーピア)の利用が増えストリーミングのサービスも盛んになると,インターネットのトラヒックはますます拡大の一途をたどるであろう.e-Japan戦略の重点政策の一つである,「5年以内に超高速アクセス(目安として30〜100Mbit/s)」が達成されると,常時接続になることにより約20倍の増加となり,日本の総トラヒック容量は2,000〜20,000倍(6Tbit/s-60Tbit/s)になると予想されている(4).一方では,本来ベストエフォートであるインターネットにQoSのメカニズムをどのように組み込むかという問題が解決されていない.また最近では,インターネットにしばしばふくそうが生じぜい弱さを露呈しており,それがインターネットのトラヒックの自己相似性に起因する厄介な問題であることも指摘されている(5).このような未曽有の膨張に対して,インターネットはやがて崩壊するのではないかという不安を感じるユーザも少なくないであろう.

 インターネットのトラヒックの爆発的な増大とインターネットが本来持つぜい弱さという問題に対して,フォトニック技術がソリューションを与えることができるのであろうか.そしてメトカーフの法則を現実のインターネットで成り立たせインターネットの価値を真に高めることができるであろうか.

 2年余前に,本誌に『IP系技術の進展に伴う通信基盤としての期待とネットワーク変革』と題して技術論を中心にした特集が東大・青山教授がまとめられている(6).今回の特集は更に視野を広げてフォトニックIPネットワークを様々な角度から論じることを目的としている.そのために本誌では異例ともいえるかもしれないが,政治・法律,社会・文化,経済の第一線で御活躍中の方々をお招きして,それぞれの立場からフォトニックIPネットワークが及ぼす影響を論じて頂く.なお,芸術や教育,科学に対するインパクトにも触れるべきであるが,紙面の都合上割愛させて頂いた.また技術面では,情報通信産業におけるインパクトを通信キャリヤ,通信機器ベンダ,IPサービスプロバイダ,放送,情報家電の立場から論じて頂く.最後に,我が国のリヴァイバルを賭けたフォトニックIPネットワークの研究推進のあり方についても意見を述べて頂く.本特集のねらいは,『フォトニックIPネットワークは人類の幸せのために』という命題を,研究開発に携わる技術者が証明することこそが本来の使命であることと改めて認識することにある.

 本総論では,フォトニック技術がIPバックボーンネットワークへ与えるインパクト及び技術的なチャレンジを概観し,更に究極的なフォトニック技術のポテンシャルを明らかにして各論のイントロダクションとする.まず2.でフォトニック技術がノードのボトルネック,IP over XXXプロトコルスタック,ノードの消費電力とサイズという問題に対してどのようなインパクトを与えることができるか,また当面のソリューションとその問題点を論じる.3.では,フォトニックIPネットワークにおけるQoS実現に向けた二つのアプローチを取り上げ,更にフォトニック技術を用いたQoSへのチャレンジについて述べる.4.では長期的な視点からフォトニック技術のポテンシャルと研究開発の課題に焦点を当て,光ファイバの究極の伝送容量や,期待されるブレークスルー技術としていくつかの革新的な超高速フォトニックプロセッシングについて述べ,5.で以上の議論をまとめる.



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