〔辻井〕
 コロッサスというある意味では世界初のコンピュータを,チューリングがコンピュータの開発自体にどこまでタッチしたかちょっと分からないけれども,かかわりはあったんですね.


〔笠原〕
 有本先生のお話を聞いていてふっと思い出したのですけれども,もしもシャノンが日本人であれば,シャノンの情報量は「ハートレー・シャノンの情報量」というふうにいわれた可能性があると思うのです.というのは,ハートレー(Hartley)が1928年に「情報容量」というのを明らかにして,「M 面体の均一なサイコロはlog10 M だけの情報のいれもの」と述べています.これを少し変形すれば−log10 1/M になります.

 ところで,シャノン自身は,だれに影響を受けたかという質問に対しては,ナイキスト(Nyquist)の名を挙げています.実はこのナイキストの研究は私が一番あこがれ尊敬している研究の一つです.ナイキストはディジタル通信にかかわる一大真理を明らかにしているのです.

 シャノンがハートレーよりもナイキストの論文に感動したということは,シャノンはやはりナイキストが明らかにした真理に非常に大きな評価を与えたのではないかと思います.先ほどの話の続きですがシャノンの情報量の考え方は「M 面体の不均一なサイコロの情報量」を出したのです.それが不均一のままであれば定義できないから,不均一なサイコロを無限大の次元にもってきて均一化したサイコロに直した.そうするとちゃんと出てくるのです.あの平均情報量の式,−pi log piです.

 もし,シャノンが日本の学会で発表していたら,「ハートレー・シャノンの情報量」というクレームがついていただろうと思います.そいういうところは日米で非常に大きな落差があるように感じます.


〔有本〕
 やはりハートレーの名前をつけなかったのは,単なるエントロピーではなくて,条件付エントロピーという概念と相互情報量という,そういう概念までやるから,結局,それはハートレーをものすごく飛び越えているわけです.


〔甘利〕
 定義が見事なだけだったらそんなに偉いわけではない.それを使って実はこんな深い理論体系が作れるということとは,それはものすごい差ですよね.

 だから,それはもう物理のエントロピーにもウィナーにもない,ハートレーにもない,そこが全然違うので,あれがだれだれシャノンになったらおかしいよね.


〔田崎〕
 もう一つは,彼の頭にはディジタルというのが最初からものすごくあって,だから,情報理論の本は結局はディジタルのオリジナルというか,しかも,今,甘利先生がおっしゃるように,相互情報量というのは通信の根本ですから,そこをきちっとあの本は言っているというところが,他の人には全く真似できなかったのではないかと思う.やはり相互情報量をあそこまでいって,しかも通信路容量をきちっと出すという,ここが他の人と違うと思う.



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