中 川 正 雄



4.3 第4世代の移動通信への可能性

 3Gは5MHzの帯域幅を標準にし,SC-DS-CDMAを利用しているが,4Gは更に広い周波数帯域幅(50〜100MHz)を要求すると思われる.割当の周波数帯も3Gの2,000MHzよりはるかに高い周波数とはいえず,シャドウイングの影響の少ない,できるだけ低い周波数の利用となると,セル間の干渉は避けられず,やはり周波数有効利用の良い変調方式が議論の対象になる.ここでは文献(13)に基づいてSC-DS-CDMA,MC-DS-CDMA,MC-CDMA,OFDMを4G環境下で比較していく. < >は比較すべき項目である. <適用リンク>としてはMC-CDMAは同期問題のためにダウンリンクのみ利用可能である.<キャリヤ数>はMC-CDMAとOFDMは周波数ダイバーシチのみに依存するために多くなる.<マルチプルアクセス>としてはOFDMのみが隣接セルに異なる周波数を要求される.<可変レート伝送>としてはMC-DS-CDMAとMC-CDMAが多くのパラメータを含むので有利となる.<最適化(ダイバーシチ)>についてはキャリヤ数の多いものが特性が良い.これが少なくてRakeを利用してダイバーシチ利得を高めようとすると,拡散符号のICIによって利得が制限される.
<IMT-2000との共通化>に関しては,MC-DS-CDMAはIMT-2000で用いられる5MHz帯域の16個のSC-DS-CDMAを合成したものであり,最も良い.ただし,ここでのMC-DS-CDMAは16個の搬送波が直交関係になく,受信機の急しゅんなフィルタで分離するものである.2.4の非線形性でも示したが,<ピーク電力>は複数の搬送波を利用した変調の泣きどころである.しかし,SC-DS-CDMAといえども可変レート伝送や,直交符号などを利用するとピーク電力を増大させることになる.<測位>は今後の移動通信にとって大切なファクタになると思われる.

 以上のような検討から,今後のセルラ系における4Gの変調はユーザ間の同期が必要なものの,ICI(マルチパス干渉:MPI(Multi-Path-Interference))の影響の少ないMC-CDMAをダウンリンク伝送に,非同期で利用できICIの影響を緩和できるMC-DS-CDMAがアップリンクで有力であると筆者は考える.


■5. ま  と  め

 ネットワーク構成やサービス内容も定まらない4Gの変調方式は今のところはっきりしていない.しかしながら,できるだけ高速な伝送が可能で,周波数効率の良いものを候補に挙げるのが当然であろう.本稿では,注目されている三つの変調方式にスポットライトを当てた.すなわち,OFDM,CDMA,そしてOFDMとCDMAの融合方式である.これらの特色と問題点を述べ,この中でMC-CDMAはセルラ系のダウンリンクに,MC-DS-CDMAがアップリンクに適していると述べた.

 謝辞 本稿を書くにあたって御助言を頂いた慶應義塾大学理工学部の笹瀬巌教授に感謝致します.また,資料を提供し,議論に参加して頂いた同大学の藤井威生助手とSigit Puspit助手に感謝致します.



■文     献

  1. L.J. Cimini, Jr., “Analysis and simulation of a digital mobile channel using orthogonal frequency division multiplexing," IEEE Trans. Commun., vol.COM-33, no.7, pp.665-675, July 1985.

  2. M. Okada, S. Hara, and N. Morinaga, “Bit error performance of orthogonal multicarrier modulation radio transmission system," IEICE Trans. Commun., vol.E76-B, no.2, pp.113-119, Feb. 1993.

  3. 小久保,山崎,中川,“SFN-OFDMセル内複数基地局システムにおける位置情報を用いた送信遅延時間制御方式,”信学技報,RCS2000-126, pp.143-148, Oct.2000.

  4. J.A. Davis and J. Jedwab, “peak-to-mean power control in OFDM, golay complementary sequences, and Reed-Muller Codes," IEEE Trans. Inf. Theory, vol.35, no.7, pp.2397-2417, Nov. 1999.

  5. L.J. Cimini, Jr. and N.R. sollenberger, “Peak-to-average power ratio reduction of an OFDM signal using partial trasmit sequences," IEEE Commun. Lett., vol. 4, no.3, pp. 86-88, March 2000.

  6. 藤井,中川,“クリッピングとフィルタリングを用いたOFDMピーク電力削減法のための適応クリッピングレベル制御法,” 信学技報,RCs2001-9, pp.61-68, April 2001.

  7. I. Jeong and M. Nakagawa, “A time division duplex CDMA system using asymmetric modulation scheme in duplex channel," IEICE trans. commun., vol.E82-B, no.12, pp.1956-1963, Dec. 2000.

  8. H. Takahashi and M. Nakagawa, “Antenna and multi-carrier combined diversity system," IEICE Trans. Commun., vol.E79-B, no.9, pp.1221-1226, sept. 1996.

  9. S.P.W. Jarot and M. Nakagawa, “Each carrier transmission power control for the reverse link of OFDM-DS-CDMA system," IEICE Trans. Commun., vol.E82-B, no.11, pp.1851-1857, Nov. 1999.

  10. S. Kondo and L. Milstein, “Performance of multicarrier DS CDMA," IEEE Trans. Commun., vol.44, no.2, pp.238-246, Feb. 1996.

  11. E.A. Sourour and M. Nakagawa, “Performance of orthogonal multicarrier CDMA in a multipath fading channel," IEEE Trans. Commun., vol.44, pp.559-569, March 1996.

  12. S. Hara and R. Prasad, “Overview of multicarrier CDMA," IEEE Commun. Mag., pp.126-133, Dec. 1997.

  13. 新,安部田,佐和橋,“ブロードバンドパケット無線アクセスの検討,”信学技報,RCs2000-136, pp.59-66, Oct. 2000.





    中川 正雄(正員)
    (なかがわ まさお)

     昭44慶大・工・電気卒.昭48同大学助手.昭49同大学院博士課程了(工).
    平元同大学理工学部教授,現在に至る.非線形振動,位相同期,移動通信,CDMA,OFDMなどの研究とともに無線通信のコンシューマ化を推進.1989IEEE Consumer Society Paper Award. 1999秋IEEE Vehicular Technology Conference Best Paper Award. 平11業績賞.総務省情報通信審議会委員.








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