堀 田 英 一


■5. 高信頼化のアーキテクチャ

 SDH/SONET等の光伝送網をベースとしてIPネットワークを構築するに際しては,光伝送網の透過性を重視した方式と機能性を重視した方式がある.SONET/SDHの本来の仕様は機能性を重視した後者の方式を実現することを想定して策定されたものであり,電話網の基盤として用いる際にはこの方式を採用している.前者の方式は,独自の耐故障機能を持つIPトラヒック等をSONET/SDH上で伝送する際の選択肢として登場してきたものである.この二つの方式には以下に述べるようなトレードオフがある.

 5.1 透過性の高い光伝送網を用いる方式

 光伝送網の透過性を重視する場合は,光伝送網は上位レイヤの信号を変更することなく透過的に伝送し,プロテクションや故障/性能管理等は上位レイヤの処理を行うルータで実行する方式である.プロテクションのためには,ルータはSDHフレーム化機能に加えて自動予備切換(APS:Automatic Protection Switching)機能を持つ必要がある(図9).予備切換(protection)は以下のように実現される.

 @ ルータ内SDHインタフェースでエンドツーエンドのAPSを行う.
 A 光パスの異経路化との併用により高信頼性を実現

 この方式は,データ装置で,冗長パスを用いたレイヤ2多重アクセスとの親和性が高い.また透過性を保証するため,光伝送網内ではSDH信号の終端を行わないため,光伝送網での障害切分けや性能モニタに限界がある.この方式はWDMの一つの波長をユーザに提供し,その使い方に提供側では関与しない「波長貸し」に近いサービスである.


 5.2 機能性の高い光伝送網を用いる方式

 光伝送網の機能性を重視する場合は,光伝送網は上位レイヤに対して信頼性の高いエンドツーエンドパスを提供することを目指す. この場合,光伝送網は,多様なプロテクション/リストレーションを提供可能であり,また光伝送網での障害切分けや性能モニタも可能である(図10).これにより光伝送網提供業者は,付加価値の高いサービスを提供することが可能となる.一方,光伝送網の上位レイヤ信号に対するモニタは,信号に影響を与える可能性のある介入的なものとなり上位レイヤ信号の透過性は保証されないことになる.また,プロテクション用冗長パスをレイヤ2多重アクセスのために利用することも不可能となる.一方,5.1の透過性の高い方式においては,ルータ/スイッチが自己の各通信ポートのモニタを行い,その結果に基づいてレイヤ2多重アクセスの機能により自分で経路を制御することが可能である.例えば,図9においてルータ/スイッチAがルータ/スイッチBと通信するために用いていたポートAの障害を検出したとき,ルータ/スイッチBと通信するため別のポート@に切り換えることが可能である.


図10 機能性の高い光伝送網

 5.3 WDM網における高信頼化技術

 米国T1X1委員会ではOTN上のプロテクションアーキテクチャとして,OCh SPRING(OCh Shared Protection Ring)を提案している(9).これは従来のSDH/SONETのリングプロテクションにおいて,物理的に異なるファイバを用いてあるいはTDMにより現用チャネルとプロテクションチャネルを割り当てていたのに対して,現用チャネルとプロテクションチャネルの各々に一つのOChを割り当てる方式,すなわち物理ファイバあるいはTDMの替りにWDMを使う方式である.この方式を米国T1X1からITU-Tに提案していく模様である.

 この方式を物理的に異なるファイバを用いた高信頼化技術と比較すると,ファイバが一本で済むというメリットを持つ一方で,二つのノードを直結する一本のファイバが切断されるだけで,その間の直接的な接続性が失われることになり,複数ファイバを用いた場合に比べると一般に耐障害性は低下する.





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